研究課題
これまでに、貧血刺激誘導的に腎臓EPO産生細胞(REP細胞)において、トランスジーンの発現が誘導可能な制御領域として、Epo遺伝子上流17 kbp内の種間保存性の高い領域のみを繋げた-17HCRs領域を同定した。しかし同領域は貧血刺激誘導的な高い発現を示すには不十分であり、スクリーニング系の樹立にはいたらなかった。また、その後、より短い制御領域としてEpo遺伝子上流8 kbp領域に存在する保存された転写因子HIF結合配列周辺のみを用いたレポーター構築を作製、解析を行ったが、同領域は高い低酸素誘導性を示したものの、REP細胞特異性は消失しており、同構築もスクリーニング系の樹立にまではいたらなかった。そこで、平成27年度は、-17kHCRsがREP細胞におけるEpo遺伝子の制御に必須であり、他の領域ではその機能を補償できない事を示す目的で、Epo遺伝子転写開始点上流60 kbpから下流120 kbpの領域を制御領域として用いたレポーター構築(60k-GFP)より上流側17 kbp範囲内の複数の種間保存性の高い領域を含む領域である上流17 kbpから上流3.5 kbpの領域(CUE)を欠失させた構築(dCUE-GFP)を作製し、トランスジェニックマウスの樹立及び貧血誘導的なトランスジーン発現解析を行った。60k-GFPに用いた制御領域はEpo遺伝子発現制御を完全に再現可能である事が示されているが、解析したdCUE-GFPでは、貧血誘導的な肝臓、脳におけるGFP発現は認められたものの、REP細胞におけるGFP発現は確認できなかった。このことは、期待通り、CUE領域内にREP細胞におけるEpo遺伝子制御に必須の制御領域が存在する事を示す結果である。
3: やや遅れている
当初の計画では、-17kHCRsまたは-8kHREを用いたスクリーニング用のレポーター構築を作製する予定であった。しかし、-17kHCRsおよび-8kHREはトランスジェニックマウスを用いた解析から、内在性のEpo遺伝子制御と比較し、その低酸素ストレス誘導的な転写活性化能が低下していること、またはその細胞種特異性が消失していることが示され、目標であったレポーター構築の作製にはいたらなかった。また、-17kHCRsを構成する各領域それぞれについて解析した結果、どの領域もEpo遺伝子の制御に必須ではなく、例え欠失しても他の領域が補償可能であることが示唆され、我々の想定以上にEpo遺伝子の制御機構は複雑であることが示唆された。昨年度の結果を受けて、-17kHCRs以外の領域にもREP細胞におけるEpo遺伝子発現制御を担う領域が存在することが想定されていたが、今回の解析では、少なくともCUE領域がEpo遺伝子をREP細胞で制御するのに必須な領域である事を示すことができた。しかし、依然としてREP細胞におけるEpo遺伝子の制御機構の全体は不明であり、効率的にスクリーニングを行うことが可能なレポーター構築を作製するにはより詳細な解析が必要である。また依然として利用可能なREP細胞由来のEPO産生細胞株が存在せず、トランスジェニックマウスを用いた解析が主な解析系になっている事も達成度が遅れている要因となっている
本研究では、1) REP細胞特異的なEpo遺伝子制御機構を解明する。2)REP細胞におけるEpo遺伝子制御を模倣したレポータースクリーニング系の開発。3)REP細胞におけるEpo遺伝子の発現誘導剤の探索。という三段階で研究を進める予定であった。これまでの結果で、REP細胞におけるEpo遺伝子の制御機構については、ある程度明らかにできたものと考えている。そこで本年は、明らかとなった制御機構を利用し、昨年に引き続き、Epo遺伝子の発現誘導剤の効果的なスクリーニングが可能なレポーター構築の作製を進めると共に、これまでの解析結果をまとめ、学会発表、論文発表を行う。またdCUE-GFPの解析結果から、今回同定したCUE領域は、REP細胞特異的なEpo遺伝子制御に必須であり、その一方で肝臓におけるEpo遺伝子制御には必須ではない事が示されている。そこで、GFPではなくEpo遺伝子を発現する同様の構築を作製し、Epo遺伝子破壊による胎生致死性を回避する事で、腎臓由来のEPOのみが欠損したマウスを樹立可能と考えられた。さらにEpo遺伝子領域にGFP遺伝子を挿入する事でEpo遺伝子破壊を行ったマウスを利用する事で、個体内EPO産生細胞をGFP標識することが可能な、腎性貧血モデルマウスが樹立可能と考えられた。初歩的な結果ではあるが現時点で、期待通りな結果が得られつつある。同マウスはEpo遺伝子の発現をGFP遺伝子の発現を調べる事で評価でき、Epo発現誘導薬の評価系として利用可能だと予想される。今後は上述のスクリーニング系の開発と共に、同マウスを用い、腎性貧血による低酸素ストレスが個体に及ぼす影響についての解析、及び、Epo遺伝子の発現誘導剤の効果の検証やEPOを介さない造血誘導剤の検証も視野に解析を進める。
現在スクリーニング系に使用可能なレポーター構築の作製、及び、細胞株の検証を行っているが、実際のスクリーニングはまだ行っていない。そのため、細胞培養で用いる消耗品の内、スクリーニング系に使用する消耗品を購入していないため、次年度使用額が生じている。
次年度(28年度)は引き続きREP細胞の株化、及びスクリーニング系の樹立を進めるため、次年度使用額はこれらの培養細胞実験に用いる消耗品の購入に充てる予定である。次年度の交付金に関しては、マウス個体の維持管理費とマウス個体を用いた解析に使用する消耗品の購入費、及び研究成果の学会発表と論文発表にかかる費用として使用する予定である。
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Journal of the american society of nephlorogy
巻: 27 ページ: 428-438
10.1681/ASN.2014121184
Molecular and cellular biology
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