研究実績の概要 |
TRPV4が炎症を促進して腎傷害を及ぼすという仮説を検証するために,TRPV4ノックアウトマウスと野生型マウス(対照群)を用い,腎炎症・線維化モデルである片側虚血再灌流傷害を施したところ,予想に反し術後14日のTRPV4ノックアウトマウス腎で,炎症性サイトカイン(TNFα, IL-1β, IL-6),ケモカイン(CCL2, CXCL2),線維性分子(Col1a1, Col3a1, αSMA)のいずれもmRNAレベルで有意に増加しており,病理学的にも炎症,線維化が増悪していた.これが初期の腎傷害に差があるためか否かを検証したところ,炎症性サイトカインなどのmRNA発現,組織学的な傷害のいずれも差を認めなかったことからそれは否定的であり,TRPV4は傷害からの修復過程,線維化の過程において,炎症を抑制する作用があることが明らかとなった. その機序を解明するために,まずTRPV4の腎内における発現を検証した.過去の報告にもある通り,腎髄質の集合管細胞でTRPV4が発現していることを蛍光二重免疫染色で確認した.さらに,近位尿細管細胞でも明らかに蛍光強度の増大を認めたが,この細胞は元の自家蛍光が強いこともあり,TRPV4発現の有無について慎重に検証を進めているところである.また,ベースライン,傷害時のいずれにおいても,間質の諸細胞にはTRPV4の発現を認めなかった.TRPV4発現細胞が同定できた後に,TRPV4が炎症を抑制する機序の検証を,主に培養細胞を用いて行う予定である. TRPV4を腎疾患治療の標的として,当初はTRPV4阻害薬を使用する予定であったが,上記のように,仮説と異なりTRPV4が炎症を抑制することが明らかになったため,TRPV4 agonistの入手を進めており,そちらを腎疾患モデルマウスに投与する実験を予定している.
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