研究課題/領域番号 |
26860643
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山口 慎太郎 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (50464855)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒトES・iPS細胞 / 尿細管細胞 / 尿細管前駆細胞 |
研究実績の概要 |
医学的および医療経済的な問題となっている透析医療の解決策の1つとして腎臓再生療法の開発が期待されている。しかしその一方で、腎臓は複数の種類の細胞から成る複雑な三次元構造を持ち、培養皿で腎臓全体を形成することは極めて困難である。 そこで、申請者らはヒト胚性幹細胞(embryonic stem cell: ES 細胞)およびヒト人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell: iPS 細胞) から尿細管前駆細胞を分化誘導し、三次元構造を有する腎臓再生の基盤を構築することを目的に研究を進めている。具体的な研究項目は、①ヒトES/iPS 細胞から腎系譜への分化誘導法の確立、②尿細管前駆細胞の同定及び純化法の構築、③三次元構造を有する腎臓再生のための足場の検討、④腎臓再生の足場への尿細管・血管前駆細胞の注入方法の検討、の4 つである。 第一に、尿細管細胞に発現が特異的なKidney specific protein(KSP)を指標に、尿細管前駆細胞への分化誘導法を検討した。GSK3β阻害薬を用いて中間中胚葉への分化誘導を促進させ、その後EGF を含む低血清培地により上皮化を促進した。そこで、申請者らの研究室で独自に作成した抗KSP モノクローナル抗体を用いてFlow Cytometryを行い、約5%のKSP 陽性細胞の純化に成功した。尿細管は管腔側と血管側という極性をもった構造であるため、KSP陽性細胞を用いてin vitro で管腔構造形成を行い、尿細管細胞に特異的なマーカーの発現を確認した。以上の結果より、これまでにヒトES/iPS細胞由来KSP陽性細胞が尿細管前駆細胞としての特性を有している可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにヒトES/iPS 細胞からKSP を指標に尿細管前駆細胞への分化誘導法を確立すべく、共培養系を用いた誘導方法や、種々の誘導因子の分化誘導における効果を調べた。さらに、独自に作成した抗KSP モノクローナル抗体を用いて、ヒトES/iPS 細胞由来KSP 陽性細胞の純化を行い、管腔構造の形成に成功した。現在はKSP 陽性細胞が尿細管前駆細胞としての特性を有するかを検討するために、KSP陽性細胞により形成される管腔構造の形態的、機能的な評価をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
KSP陽性細胞への分化誘導をより効率的に行い、純化したKSP陽性細胞を尿細管細胞として機能的に成熟させる方法を検討する。そのために、マウス腎虚血・再灌流モデルを用いた解析結果をもとに、新規の尿細管分化・再生因子を同定する。また、純化したKSP陽性細胞の特性の検討を形態・機能の両面から進めていく。同時に、腎臓の三次元構造再生の足場として考えている腎臓骨格を保持した状態で細胞成分を取り除いた脱細胞化腎の作成を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度はヒトES/iPS 細胞からKSP を指標に尿細管前駆細胞への分化誘導法を確立し、独自に作成した抗KSP モノクローナル抗体を用いて、ヒトES/iPS 細胞由来KSP 陽性細胞の純化を行った。さらに、KSP陽性細胞による管腔構造の形成に成功した。 平成27年度はKSP 陽性細胞が尿細管前駆細胞としての特性を有するかを検討するために、KSP陽性細胞により形成される管腔構造の形態的、機能的な評価をすすめていく。また、小動物から摘出した腎臓を三次元構造再生の足場にするための脱細胞化技術を確立、脱細胞化腎へヒトES/iPS 細胞由来腎臓・血管前駆細胞を注入する際の分化段階や注入方法を検討する。
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次年度使用額の使用計画 |
研究経費の主要な用途は消耗品である。今までの研究経費の使用状況から、ヒトES/iPS 細胞の維持や分化誘導に必要な誘導因子などの細胞培養試薬、Flow cytometryを用いた細胞選別のための抗体、PCR、Western blot などのための一般試薬、培養用フラスコ、ディッシュなどのプラスチック器具などの購入が必要である。また、脱細胞化した腎臓を作製するための、動物代、動物投与用試薬、動物維持費も必要となる。研究成果を公表する論文への投稿料も想定される。
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