近年の疫学調査によって、多発性硬化症の有病率が本邦も含め世界的に上昇していることが明らかになった。その要因として衛生環境や食生活の変化が腸内細菌叢を介して単核球機能に影響を与えている可能性が指摘されている。 innate T細胞は多様性を有しないT細胞抗原受容体を発現し、ペプチド以外のリガンドを認識して、敏速に免疫反応にあずかる細胞群の総称である。代表例としてγδT細胞、natural killer T細胞、mucosal associated invariant T (MAIT)細胞などがあげられる。このうちMAIT細胞はヒトやマウスの消化管固有粘膜層に局在し、ヒトT細胞における主要集団とされている。MAIT細胞は多発性硬化症の中枢神経脱髄巣に浸潤していることが報告されている。 本研究では多発性硬化症患者と健常者より末梢血を採取し、MAIT細胞の出現割合やサイトカイン産生能などの機能解析を行なった。多発性硬化症患者はインターフェロンβ(IFN-β)やフィンゴリモド(FTY720)によるdisease modifying therapy(DMT)を受けている群とDMTを受けていない群(non-DMT)から形成した。 研究の結果、健常群とnon-DMT群ではMAIT細胞の出現割合に有意差はなかったが、FTY720群では治療期間依存性にMAIT細胞の出現割合が増加することが判明した。このことから多発性硬化症の進行予防に対するFTY720の作用機序のひとつにMAIT細胞への作用があることが示唆された。 MAIT細胞を代表とするinnate T細胞について詳細な知見を得ることは多発性硬化症の発症・維持にかかるメカニズムの本質に迫ることとなり、さらなる新規治療法開発を可能にするものである。
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