多くの認知症疾患において発症前~病初期に嗅覚障害が認められることが明らかになってきている。嗅覚障害の評価法として本邦ではニオイ検知閾値および識別覚の検査法が開発されているが、ニオイ記憶については標準化された検査方法が存在しないという問題がある。 本研究ではニオイ記憶の検査手法を確立し、より高感度に認知症疾患における嗅覚障害を検出することを目的としている。 そのために、健常者・軽度認知機能障害患者および認知症患者におけるニオイ記憶障害を新たな手法で縦断的に評価し、その臨床的特徴や責任病巣を明らかにしようとしている。 当該年度では、パーキンソン病・レビー小体型認知症・アルツハイマー病を中心とした神経変性疾患の患者を対象に取得した臨床データ・嗅覚障害に関するデータおよび脳画像データなどをもとに最終的な解析を行った。OSIT-Jを2回繰り返すことでニオイ記憶障害を評価する予定であったが、実際には1回目の嗅覚障害に依存した結果となることが明らかになり、今回の手法でニオイ記憶を評価することは困難であることが明らかに成った。 一方、パーキンソン病を対象にしたサブ解析では、ニオイ記憶障害よりも他覚的嗅覚障害と自覚的嗅覚障害の差から定義した”嗅覚障害の無自覚スコア”が軽度認知機能障害によって特異的に生じる症状であることを明らかにし、国際英文誌に報告した。また画像解析により、嗅覚障害の無自覚の程度と関連する脳領域についても検討を加えている。
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