研究実績の概要 |
本研究では、パーキンソン病で脳に蓄積するα-シヌクレインを、非標識下に生きた細胞・組織中で定量的に検出する方法論の開発を目的としている。今年度はまず、大腸菌に作らせた組み換えα-シヌクレインをリン酸緩衝液中で振盪しながらインキュベートすることで、α-シヌクレイン凝集体をin vitroで作成した。昨年度までに製作したラマン分光顕微鏡を用いて、in vitroで作成したα-シヌクレイン凝集体のラマン分光画像を測定し、凝集体中の化学結合に由来するラマンシフトの空間分布を測定した。in vitroのα-シヌクレイン凝集体には、非凝集状態のrecombinantのα-シヌクレイン同様に、一般的なタンパク質のスペクトルに認められる1001,1445,1645cm-1などのラマンシフトを認めた。さらにこれらのピークに加えて、in vitroのα-シヌクレイン凝集体では、βシート構造の存在を示唆すると考えられる1550,1600cm-1などのラマンシフトを認めた。 次に、SNCA遺伝子を組み込んだレンチウィルスベクターを用いてα-シヌクレインを定常発現させたHeLa細胞に、別途作成したα-シヌクレイン凝集体を超音波破砕したものをseedとして加え、24時間培養することで、培養細胞内にα-シヌクレイン凝集体を形成した。この凝集体を含む培養細胞標本を蛍光標識した抗α-シヌクレイン抗体で免疫染色し、蛍光信号と共局在するラマンシフトを調べたところ、in vitroで作成したα-シヌクレイン凝集体と同様のラマンスペクトル波形が観測された。このことは、測定されたラマンスペクトル波形が、凝集状態にあるα-シヌクレインの分子特異的マーカーとして、培養細胞内においても機能する可能性を示している。すなわち、この波形を手掛かりに、生体組織中でのα-シヌクレイン凝集体の非染色条件下での分子同定と定量が可能である。
|