研究課題
「橋本脳症」は,慢性甲状腺炎(橋本病)に合併する自己免疫性脳症であり,治療可能な認知症の鑑別診断のひとつとして重要である.本研究の目的は,認知症や情動障害を主とする辺縁系脳炎型橋本脳症の疾患概念の確立と病態研究である.また,我々の研究グループでは橋本脳症に対する血清中特異的自己抗体(抗NAE抗体)を同定し,その後国内外から広く解析依頼を受けている.<辺縁系脳炎型橋本脳症患者のエントリー> 抗NAE抗体陽性で,抗甲状腺抗体陽性,辺縁系脳炎症状を呈し,頭部MRI画像で側頭葉に病変を呈した患者19名を対象患者としてエントリーした.うち5名は抗VGKC抗体も陽性であったために,最終的に除外し,対象を14名とした.<辺縁系脳炎型橋本脳症の病態研究> 自己抗体の海馬への免疫反応性と局在の検討:抗NAE抗体陽性の辺縁系脳炎型橋本脳症患者の血清をラット海馬スライスに反応させた.患者血清は海馬ニューロンの細胞質に反応を示し,市販の抗α‐エノラーゼ抗体の反応部位と一部一致した.正常コントロール患者の血清は反応を示さなかった.<辺縁系脳炎型橋本脳症の臨床研究> 対象患者の臨床徴候や検査画像所見,治療反応性などの特徴を検討した.辺縁系脳炎型橋本脳症の患者は,急性,亜急性に発症する群があり,その群間で臨床徴候の差異がみられた.急性群は意識障害や全身痙攣を多く呈し,亜急性群は精神症状や認知機能低下を多く呈した.いずれの群も腫瘍の随伴はなく,免疫治療に対する反応性が良好であった.
2: おおむね順調に進展している
臨床研究については,患者のエントリーが終了した.また,次年度の計画であった臨床徴候や検査画像所見などの特徴の解析もほぼ達成し,論文投稿の準備中である.病態研究は免疫組織蛍光染色は終了したが,プロテオーム解析と生理機能解析が準備中である.
<辺縁系脳炎型橋本脳症の病態研究> 海馬神経組織プロテオーム変化の解析として,患者の血清・髄液添加による培養ラット海馬神経細胞のプロテオーム変化を2D-DIGE法を用いて解析を進める.生理機能解析として,患者髄液を灌流し,パッチクランプ法によって海馬神経細胞のシナプス伝達の変化を測定する.<辺縁系脳炎型橋本脳症の臨床研究> 26年度に解析した結果を論文および学会にて成果を発表する.
辺縁系脳炎型橋本脳症の病態研究のために,ラット海馬細胞の購入を計上していたが,購入に至らなかったために次年度使用額が生じた.
<辺縁系脳炎型橋本脳症の病態研究> 海馬神経組織プロテオーム変化の解析として,患者の血清・髄液添加による培養ラット海馬神経細胞のプロテオーム変化を2D-DIGE法を用いて解析を進める.そのために,次年度使用額を使用する予定である.
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Cerebellum
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10.1007/s12311-015-0664-x
精神科
巻: 26 ページ: 159‐163
Neurol Clin Neurosci
巻: 2 ページ: 104-108