研究課題
本研究の目的は大きく以下の4点に分けられる.目的(1)運動ニューロン疾患における各臓器でのDNAメチル化異常の解析.目的(2)DNAメチル化異常が起こるメカニズムの解析.目的(3)DNAメチル化阻害剤による治療効果の解析.目的(4)DNAメチル化異常により発現異常を来す遺伝子の検索.平成26年度の研究成果として,まず目的(1)に関して,対象疾患である球脊髄性筋萎縮症(SBMA)モデルマウスの脊髄におけるDNAメチル化異常について明らかにした.具体的には野生型マウスに比べ病気のモデルマウスでは脊髄運動ニューロン全体としては低メチル化状態にあることが示された.しかし一方でSBMAモデルマウスの脊髄運動ニューロン核にはDNAメチル化を促進する酵素であるDnmt1が高発現していることも明らかとなった.このことから,特定の遺伝子のプロモーター領域のCpGアイランドでDnmt1によるDNAの異常メチル化が起こっている可能性が示唆されたため,現在バイサルファイト法などを用いた検証実験を行っている.目的(2)に関してはSBMAモデル細胞を用いて解析をおこなっている.また,目的(3)のうち,運動解析をほぼ完了した.具体的にはSBMAモデルマウスの脳室内にDNAメチル化阻害剤であるRG108を投与し,生存や運動機能を評価したところRG108による治療効果が示された.さらに目的(4)に関して,RG108治療を受けたSBMAマウスとDMSOのみで治療したマウスの脊髄組織を用いて複数の遺伝子発現を解析したところ,分子シャペロンのひとつであるHsp70の発現量が上昇していることが示された.さらにDNAマイクロアレイ解析を行い,現在結果を解析中である.DNAメチル化阻害剤の治療効果が示されたことは想定した通りの結果であり,今後さらに具体的な機序について明らかにするために実験を進めている.
2: おおむね順調に進展している
目的(1)運動ニューロン疾患における各臓器でのDNAメチル化異常の解析.に関してはSBMAモデルマウスの脊髄についての解析がほぼ完了しており,今後は脊髄以外の中枢神経臓器である大脳や小脳および筋肉について解析を行う予定であり,そのためのサンプルの確保はおおむね完了している.また,目的(2)DNAメチル化異常が起こるメカニズムの解析.については,より純粋に神経細胞のみに関するDNAメチル化を解析するためSBMAモデル細胞を用いて実験系を構築中である.次に目的(3)DNAメチル化阻害剤による治療効果の解析.に関してはマウスの運動解析はほぼ完了しており,今後の解析に使用する組織サンプルも確保済みである.最後に,目的(4)DNAメチル化異常により発現異常を来す遺伝子の検索.についてもDNAマイクロアレイ解析や遺伝子プロモーター領域のCpGアイランドのメチル化の状態を調べる実験を行っており,DNAメチル化阻害剤がどの遺伝子発現に影響し,SBMAの病態を改善しているのかというメカニズムが徐々に明らかになりつつある.以上のように4つの主要な目的に関して,ほぼ予定通りの到達度であることから本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
今後進めていくべき研究内容として,目的(1)運動ニューロン疾患における各臓器でのDNAメチル化異常の解析.については脊髄以外の臓器でのDNAメチル化異常の解析,目的(2)DNAメチル化異常が起こるメカニズムの解析に関しては,神経細胞を用いた実験系の確立とその系を用いたSBMAの病態再現時のDNAメチル化異常発生のメカニズムの解析.目的(3)DNAメチル化阻害剤による治療効果の解析.についてはRG108で治療したマウス組織を用いた生化学的組織学的解析の遂行.目的(4)DNAメチル化異常により発現異常を来す遺伝子の検索.についてはDNAメチル化阻害治療により発現が回復し,病態改善に影響を与えた遺伝子の同定とSBMAの病態における当該遺伝子の役割についての検証.が挙げられる.研究を遂行するうえでの課題としてDNAメチル化解析を中心としたエピジェネティクス解析について,確実性を求める観点からがん研究等ですでにエピジェネティクス解析について経験と実績のある専門家と共同で解析を行う必要があるが,すでに専門家との連絡および話し合いを行っている.
1月以降に使用した動物実験施設使用料の支払いが平成27年度になる。
本年度より翌年度にかけて予定している実験動物関連への支払いに充当する。
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Human Molecular Genetics
巻: 24 ページ: 314-329
10.1093/hmg/ddu445
巻: 23 ページ: 3552-3565
10.1093/hmg/ddu066