本研究は、タウをコードするMAPT遺伝子に新規変異を有する患者線維芽細胞由来のiPS細胞から、大脳皮質ニューロンを誘導し、in vitroで内在性タウの蓄積を検出できる大脳皮質ニューロン培養系の開発を目的として行なった。この培養系を用いてタウの異常蓄積の原因をスクリーニングすることは、タウ病変を有する多くの神経変性疾患の発症メカニズムの解明に役立つ。 1.タウをコードするMAPT遺伝子に変異のある線維芽細胞から、iPS細胞の誘導に成功した。MAPTの新規変異を有する3人の患者から採取した線維芽細胞から、Yamanaka法に準じてiPS細胞を誘導した。各線維芽細胞より、それぞれ7~15クローンのiPS細胞を樹立した。 2.健常者iPS細胞を用いて神経誘導プロトコールを作製した。患者iPS細胞では神経誘導がうまく起こらない可能性があるため、すでに分化能が高いことを確認した健常者iPS細胞株を用い、神経細胞の誘導を行なった。クローンによってばらつきが見られたものの、神経マーカーのTUJ1陽性細胞が70%~90%検出できる条件を確立した。 3.CRISPRにより、遺伝子変異を正常化したコントロールの作製を試みた。iPS細胞のクローン間の性質の差が大きいことはすでに知られているため、健常者iPS細胞と患者iPS細胞の単純な比較では、iPS細胞のクローン間の差が結果を左右する可能性が高い。そのため、患者iPS細胞株のMAPT遺伝子の変異をCRISPRにて正常配列にもどし、コントロールとなるiPS細胞の樹立を試みたがその途中で本年度の研究が終了した。 本研究は1年で終了となったが、今後患者iPS細胞と配列を正常化したコントロールiPS細胞から、大脳皮質ニューロンを誘導して比較する予定であった。
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