研究課題
IBMモデルマウスとしては、これまでいくつかのモデルが提唱されているが、中でも骨格筋特異的にアミロイ ド前駆蛋白を過剰発現するトランスジェニックマウスでは表現系の再現が見られている。我々は今回初めてIBM 患者の骨格筋に高頻度に蓄積するTDP-43に着目し、このTDP-43の過剰発現が病態発現に必要十分であるか否かを明らかにするために、完全長ヒトTDP-43遺伝子を骨格筋特異的なプロモーターを用いて過剰発現するトランスジ ェニックマウスを作成した。36週経過時点から野生型マウスに比してトランスジェニックマウスでは体重減少がみられるようになり、筋病理学的にはIBM病理像に類似した縁取り空胞に加え、筋形質内でのTDP-43凝集が確認されるとともに筋の大小不同や内在核を有する線維の増加を認めた。血液生化学的解析ではCK, AST, ALD等の上昇がみられた。このことからTDP-43の骨格筋での過剰発現は一次的に筋障害、筋変性をもたらすと考えられた。次にTDP-43の凝集がみられた部位から、レーザーマイクロダイセクションを用いてトランスジェニックマウス骨格筋における蛋白凝集部位置、凝集部位を除く筋形質、野生型マウス骨格筋の筋形質成分を回収し、蛋白を溶出後、LC-MS/ MSによるプロテオミクス解析を行うことにより、凝集蛋白の構成成分を明らかにすると共に、それぞれの凝集蛋白 形成に重要な働きを持つ蛋白質を同定することを試みた。凝集部位においては、ミスフォールディング蛋白の認識や制御に関連する蛋白が複数確認された。さらに近年着目されているIBM患者血清中に存在する自己抗体の標的蛋白であるCytosolic 5'-nucleotidase 1A(NT5C1A)も凝集部位から検出された。IBM骨格筋組織においてもNT5C1Aが筋形質内に凝集する傾向がみられており、TDP-43の異所性局在とNT5C1Aの凝集および自己免疫反応の惹起との関連について検討予定である。
2: おおむね順調に進展している
TDP-43骨格筋過剰発現トランスジェニックマウスに関する研究に関しては、当初の研究計画に添い、尚かつLC-MS/ MSを用いたプロテオミクス解析も行うことができおおむね順調に進展した。ヒトIBM骨格筋組織に関しては縁取り空胞部分について解析を行っているが、レーザーマイクロダイセクションによる蛋白採取可能面積は非常に小さいため、さらに蛋白採取面積を拡大して再検討を行っている。
ヒトTDP-43遺伝子を骨格筋特異的なプロモーターを用いて過剰発現する トランスジェニックマウスについて、TDP-43 に対するsiRNA投与による治療や、骨髄間葉系幹細胞移植による治療の有効性を筋病理学的、生化学的、行動解 析学的、電気生理学的に評価する。また封入体の構成成分であるTDP-43蛋白の凝集形成能および細胞への伝播性評価を行う。 IBM患者の骨格筋に高頻度に蓄積するTDP-43 についても、筋線維から筋線維へ伝播することによって病変が進展する可能性がある。TDP-43凝集体の性質を解 明することは、封入体筋炎のみならずALSや前頭側頭型認知症、さらにはアルツハイマー病や家族性アミロイド ポリニューロパチーなどの神経筋異常蛋白凝集症の病態解明に不可欠と考える。神経筋異常蛋白凝集症に関わる本質的 な病態を明らかにすることによって、多くの神経筋異常蛋白凝集症の治療法開発に結びつける。
次年度に一部実験計画を持ち越したことおよび、設備備品の補修が可能であったため新規購入の必要性が乏しかったため。
実験動物作成および維持、細胞培養培地・血清、LC-MS/ MS関連試薬や抗体、染色関連、ウェスタンブロット関連試薬に加え、今年度も海外での学会発表を予定しており旅費等に使用を計画している。
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Neuropathology and Applied Neurobiology.
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10.1111/nan.12179
Journal of the Neurological Sciences.
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0.1016/j.jns.2014.08.009