本研究は、アルツハイマー病を中心とした認知症患者の各種症状における時間的要素の障害を解明することを目的にしている。具体的には、認知症患者における時間感覚の障害について、その認知的要因と神経基盤を検討し、各種認知症症状と時間感覚の障害の関連を検索する。そのため、時間認知課題成績と種々の神経心理学的指標との相関を分析する。また、時間認知成績と脳局所体積の相関を分析し、時間認知の神経基盤を検証する。 平成28年度は、認知症患者を対象として、時間感覚について質問した半構造化インタビューのデータ分析を完了させた。インタビューの分析には、グラウンデッド・セオリー法を用いた。グラウンデッド・セオリー法は、データに根ざした理論を構築することを目的とする。この理論とは、データを説明する理論概念(カテゴリー)とカテゴリー間の関係の説明からなる。そのため、グラウンデッド・セオリー法では、人々がどのように世界を体験し、主観的現実を作り出しているかということに注目して明らかにすることができる。グラウンデッド・セオリー法は質的研究の一方法であるが、質的研究は、先行研究が少ないとき、それまで見落とされていた現状の特徴を浮き彫りにし、その概念を定義する理論構築に役立ち、また人が自分の体験からどのように意味を作り出すのかということを理解するために役立つ。 データ分析からは5つのカテゴリーおよびそれらのカテゴリー間の関係が得られ、関連研究の結果と併せて考察を行い、現在学術誌への論文投稿を準備中である。
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