睡眠にまつわる諸症状、なかでも中途覚醒の増加と深睡眠の減少は、アルツハイマー病、パーキンソン病をはじめとする様々な神経変性疾患の患者に共通して、疾患早期から高い頻度で出現する症状である。このような睡眠の異常は、従来、睡眠-覚醒の制御をつかさどる脳部位に神経変性がおよんだ結果として出現すると考えられてきた。一方で近年、「睡眠の異常が神経変性を増悪させる」という可能性を示唆する疫学研究からの知見が増えているが、その詳細な機構はいまだ明らかではない。 本研究では、睡眠の異常が神経変性を増悪させるか否かを検証するため、最近わが国で開発された「睡眠障害モデルマウス作製装置」を用いて野生型および神経変性疾患モデルマウスに睡眠障害を誘導し、睡眠障害による病理学的変化を解析した。本研究で用いた装置は、先行研究で用いられた装置と異なり、患者類似の睡眠の異常(中途覚醒の増加、深睡眠の減少)をマウスに慢性的に誘発することができることが特徴である。 この装置を用いて、神経変性疾患モデルマウスを通常の条件で飼育した場合と慢性的な睡眠障害を誘導した場合について脳病理学的解析を行い、睡眠障害による脳病理の変化を解析した。さらに、マウスに誘発された睡眠障害の特徴について解析を行った。その結果、中途覚醒の回数と脳病理の重症度が有意な正の相関を示し、総睡眠時間と脳病理の重症度が有意な負の相関を示すことを明らかにした。 以上から、本研究では、患者類似の慢性的な睡眠障害を神経変性疾患モデルマウスに誘発することに成功し、さらに、この睡眠障害が神経変性疾患モデルマウスの脳病理を悪化させることを明らかにした。
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