本研究では、褐色脂肪細胞の増殖機構について焦点を当てて研究を行った。昨年度までの研究により、褐色脂肪細胞が分化後にも増殖すること、またその増殖がアドレナリンβ3受容体作動薬により誘導されることが明らかになったため、今年度はそのメカニズムについて検討を進め、1) 寒冷刺激は交感神経を介して褐色脂肪細胞の増殖を誘導すること、2) 寒冷刺激誘導性の増殖はアドレナリンβ3受容体のブロッカーにより抑制されたが、β1受容体ブロッカーの影響を受けないこと、3) 成熟脂肪細胞の増殖を人為的に停止させたトランスジェニックマウスにおいては、β3受容体作動薬による増殖が起こらないこと、4) β3作動薬により増殖を誘導し、褐色脂肪量を増加させると全身のエネルギー消費量が増加すること、などが明らかになった。 また、ヒト褐色脂肪が加齢に伴い減少するメカニズムを明らかにするために、マウスを用いて加齢と褐色脂肪量の関係について検討を行った。ヒト褐色脂肪は白色脂肪組織中に誘導される褐色脂肪細胞様のベージュ脂肪細胞である可能性が報告されているが、マウスにおいても交感神経性刺激によるベージュ脂肪細胞の誘導性が加齢に伴い減少することがわかった。そのメカニズムとして、ベージュ脂肪細胞に分化することが報告されているPDGFRα陽性のプロジェニター細胞の数の減少によることが示唆され、今後は成熟細胞のみならずプロジェニター細胞の数の制御機構についても検討していく必要があると考えられた。
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