研究課題/領域番号 |
26860689
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諏訪内 浩紹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60624939)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリンシグナル |
研究実績の概要 |
膵β細胞特異的PI3KノックアウトマウスにGLP-1アナログを長期投与した群とPBSを投与コントロール群、ワイルドタイプマウスにGLP-1アナログを長期投与した群と、PBSを投与したコントロール群の4群から膵島を単離し、マイクレアレイ解析を行った。その結果、インスリンにコントロールされているglut2, gjd2などの遺伝子の他、egfr (epidermal growth factor receptor)の発現が膵β細胞特異的PI3Kノックアウトマウスの群で低下をしていた。膵島のegfr発現解析をしたところ有意な低下を認めた。DB/DBマウスの膵島でもコントロールマウスと比べ発現低下が認められた。コントロールマウスでも18週になると6週に比べて発現が低下していることより、高週齢となるとegfrの発現が低下していた。DB/DBマウスにGLP-1アナログを長期投与したところ血糖降下作用は全く認められなかった。また、膵β細胞株であるMIN6細胞に、dominant negative AKTを発現するアデノウイルスを感染させるとegfrの発現が有意に低下した。foxo1のdominant negativeを発現させるfoxo1-aaaアデノウイルス感染によりegfrの発現は上昇し、逆にconstitutive nuclearを発現するfoxo1-ADAアデノウイルス感染によりegfrは著明に低下することより、akt-foxo1経路がegfrの発現に重要であることが示された。GLP-1はGLP-1受容体を介してbetacellulinを発現させ、egfrを活性化することで膵β細胞に作用すると考えられている。これらから、糖尿病では高血糖により膵島が糖毒性にさらされ、foxo1が核内に移行、その結果、egfrの発現が低下してGLP-1アナログが作用しなかったことが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2型糖尿病の発症時期に、膵β細胞のインスリン分泌が低下するメカニズムを解明している。GLP-1アナログの作用が減弱する一因として、マイクロアレイ解析により遺伝子を絞込み、現在その証明を行っているところである。現在のところ概ね順調に進展している。いくつか膵β細胞のegfrの役割についての報告はあるが、いずれもそのリン酸化による活性化の解析であり、膵β細胞におけるタンパク発現の調節について研究を行っている報告はない。膵β細胞のegfrの発現や機能についてより詳しく解明することで、膵β細胞の機能維持や回復について大変重要な示唆が得られると考えている。今後は、膵β細胞でegfrの発現を回復させるようなgain of functionの実験をする方向である。
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今後の研究の推進方策 |
2型糖尿病の発症時期に、膵β細胞のインスリン分泌が低下するメカニズムは未解明な点が多く、既存の治療薬もすべての患者に十分な効果が期待できるわけではない。現在は内服薬、注射薬など多剤を使用して合併症を食い止める治療が主流である。そのため、インスリン分泌が低下するメカニズムを解明することが急務である。本実験により、Egfrの発現がakt/foxo1の経路によりコントロールされていることが解明されたことはとても意義深く、今後、インスリン分泌低下の新たなメカニズムを解明できると考えている。いままで、膵β細胞のegfrの役割についての報告はいくつかあるが、いずれもそのリン酸化による活性化の解析であり、膵β細胞におけるタンパク発現の調節について研究を行っている報告はない。膵β細胞のegfrの発現や機能についてより詳しく解明することで、膵β細胞の機能維持や回復について大変重要な示唆が得られると考えている。今後は、膵β細胞株でegfrのプロモーター解析を行い、その転写因子やそのメカニズムを同定すること。egfrは多数のリン酸化部位があることが知られている。リン酸化部位の機能につきdeletionを行ったcDNAを発現させることで特定する予定である。また、egfrの発現を回復させるようなgain of functionの実験をウイルスベクターあどを使用し行う予定としている。
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