研究課題
研究代表者は、糖尿病マウスにおいてβ細胞低酸素の存在を初めて明らかにした(Sato Y. JBC 2011)。しかし、糖尿病時にβ細胞がどのような機序で低酸素化されるか、また低酸素がどのようなβ細胞障害性を示すか、糖尿病におけるβ細胞低酸素の病態的意義は未だ不明である。本研究では、①低酸素イメージングが可能な糖尿病モデルマウスを作成し、糖尿病の発症進展におけるβ細胞低酸素の出現と成因を明確にすると共に、②低酸素が引き金となって起こるβ細胞障害メカニズム(分泌不全、細胞死など)の解明を目的とする。これまでのところ、①に関しては低酸素イメージング型である2種類の肥満糖尿病モデルマウスの個体作成に成功しており、現在実験に必要な個体数の確保を行っている。本格的な成因究明に関する検討は平成27年度に行う予定にしている。②に関しては低酸素によりβ細胞機能(インスリン分泌機構)に関与する多くの転写因子、糖輸送体、チャネルなどの発現が低下することが判明した。これらの発現低下メカニズムを調べたところ、低酸素応答のマスターレギュレーターであるHIF-1経路とは無関係に制御されていることが明らかとなり、英文雑誌にて報告した(Sato Y. PLoSONE 2014)。HIF-1による低酸素応答システムはよく研究されているが、HIF-1非依存的な低酸素応答経路についてはほとんど解析されておらず、HIF-1以外の経路については明らかな分類もなされていない。今後HIF-1非依存的な低酸素制御機構の検討に繋がる重要な成果となることが期待される。また低酸素モニタリング糖尿病マウスの解析は糖尿病の低酸素病態を明らかにするための有力なツールとなることが推測される。
3: やや遅れている
平成26年度は、①低酸素モニター型糖尿病マウスを作成し、β細胞低酸素やβ細胞の酸素代謝(酸素供給や酸素消費など)がどのように変化するかを検討すること。また②膵β細胞株、単離膵島、マウス個体などを低酸素に暴露し、β細胞機能および生存度の検討を行うことを計画していた。①に関しては低酸素イメージング型である2種類の肥満糖尿病モデルマウスの個体作成に成功しているが、具体的にマウスの解析まで至っていない。その点では少し研究が遅れている。しかし②に関しては細胞株、単離膵島を用いた検討で多くの知見を得て英文雑誌にて報告したので(Sato Y. PLoSONE 2014)、②の目標はおおよそ達成した。平成27年度は、主に①の課題に専念する予定である。
平成27年度は、①低酸素モニター型糖尿病マウスに糖尿病治療薬を投与し、低酸素への影響を検討する。②低酸素によるβ細胞障害経路(HIF依存経路など)を同定し、酸化ストレス,小胞体ストレスとの関連を検討する。②の課題については平成26年度におおよそ検討が終了したので、平成27年度は、主に①の課題に専念する予定である。具体的には低酸素モニター型糖尿病マウスを用いて、低酸素に陥る過程(タイムコースの検討)、成因解析(膵島内血管などの評価)および糖尿病マウス膵島の酸素代謝についても検討する予定である。また発展的には糖尿病治療薬がβ細胞低酸素に与える影響についても検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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