研究課題/領域番号 |
26860702
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研究機関 | 独立行政法人国立健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
井上 真理子 独立行政法人国立健康・栄養研究所, 臨床栄養研究部, 室長 (80511477)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インスリン受容体基質-2 / 摂食調節 / 肝臓のインスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
脳特異的IRS-2欠損マウスでは、摂食量の増加に伴い肥満を呈し、肝臓と骨格筋の両方でインスリン抵抗性を認めた。しかし、pair-fedを行って脳特異的IRS-2欠損マウスの体重をコントロールマウスと同等に維持し肥満の影響を除外すると、肝臓での糖産生亢進のみを認め、このマウスでは肥満とは独立に肝臓のインスリン抵抗性を呈することを見出した。 これがどのような経路によって調節されているのかを明らかにするため、脳特異的IRS-2欠損マウスにグルコースを腹腔内投与し、肝臓の糖産生について検討した。グルコース投与3時間後の血中のインスリン濃度は約2倍に上昇しており、このとき、コントロールマウスの肝臓ではIL-6の上昇とStat3のリン酸化を認めたが、脳特異的IRS-2欠損マウスではこの上昇やリン酸化が減弱していた。さらに、これに一致して、コントロールマウスで認められたG6Pase、PEPCKといった肝臓の糖産生に関わる遺伝子の発現抑制は、脳特異的IRS-2欠損マウスで有意に減弱していた。 次に、これが中枢のインスリン作用によるものかどうか確認するために、脳室内にインスリンを投与したところ、脳特異的IRS-2欠損マウスの弓状核において、IRS-2とそのリン酸化は認められず、その下流分子として知られているAktのリン酸化も減弱していた。さらにこのとき、肝臓ではStat3のリン酸化の減弱を認めた。以上より、中枢のIRS-2が欠損すると、肝臓のIL-6の上昇が減弱し、Stat3のリン酸化が減弱することにより、糖産生が亢進し、肝臓のインスリン抵抗性が惹起される可能性が示唆された。これらのことから、中枢のIRS-2が肝臓の糖産生抑制に寄与していることを明らかに出来たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、26年度の研究計画・方法として記載した食欲調節に関する解析は、初代培養系の確立が難しく時間を要してしまったため、途中から予定を変更し、27年度以降の計画内容としていた中枢のIRS-2を介した肝臓の糖代謝調節メカニズムについての研究を先に進めることとしたため、計画よりもやや遅れている。また、マウスにおいて脳のIRS-2が欠損すると出生率が低下することは以前から報告されており、実際、脳特異的IRS-2欠損マウスの繁殖に難儀し、研究を進めるうえで十分な匹数のマウスの確保が困難であったことも、やや研究が遅れている原因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
中枢のIRS-2を介した肝臓の糖代謝調節メカニズムをさらに詳細に解明するため、脳特異的IRS-2欠損マウスの脳室内にインスリンを投与し、肝臓におけるG6Pase、PEPCKといった糖産生に関わる遺伝子の発現をコントロールマウスと比較する。 また、当初は初年度に行う予定であった、インスリンとレプチンのIRS-2を介した摂食調節メカニズムの解明について解析を進める。我々はこれまでに、脳特異的IRS-2欠損マウスでは肥満とは独立してレプチン抵抗性を有することを明らかにした。さらに、このマウスでは摂食亢進ペプチドであるAgRP、NPYの発現上昇と、摂食抑制ペプチドであるPOMCの発現低下を認めていることから、これが摂食亢進の原因の一部を説明し得るものと考えている。また、中枢のインスリンについても摂食抑制作用が報告されていることから、インスリンとレプチンのIRS-2を介した摂食調節への寄与の程度を明らかにする目的で、培養細胞株にIRS-2もしくはStat3をdownregulationさせた細胞を用いて、摂食調節ペプチドの発現調節を検討する。
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