研究課題/領域番号 |
26860703
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米代 武司 北海道大学, 獣医学研究科, 学振特別研究員(PD) (40724167)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 褐色脂肪組織 / 新規評価法 / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
1.近赤外時間分解分光法(NIRS-TRS)を用いた新規ヒト褐色脂肪評価法の確立: 健康な成人男性29名を対象に寒冷刺激を組み合わせたPET/CTを行い、褐色脂肪活性を評価した。同被験者を対象に、NIRS-TRSを用いて、褐色脂肪近傍部(鎖骨上窩部)のヘモグロビン含量とミトコンドリア含量を測定した。その結果、褐色脂肪近傍部では、ヘモグロビン含量、ミトコンドリア含量はいずれもPET/CTで評価した褐色脂肪活性と強く相関したが、他の部位ではしなかった。両指標を含めた褐色脂肪活性推定式を作成したところ、非常に高い感度、特異度、精度が得られた。NIRS-TRSが無被曝の新規褐色脂肪評価法になることが判明した。 2.ヒト褐色脂肪と糖代謝状態の関係: 健康な成人260名のFDG-PET/CT検査データを再解析し、褐色脂肪活性とHbA1c、HOMA-IRなどの関係を調べた。その結果、褐色脂肪活性が体脂肪量やHbA1c、HOMA-IRと有意に逆相関することが判明した。さらに興味深いことに、多変量解析を用いて体脂肪量や内臓脂肪量の影響を除去してもなお、褐色脂肪活性は糖代謝状態に有意に影響を及ぼしていた。この結果は、褐色脂肪が体脂肪への影響を介してのみならず、体脂肪とは独立した機序によっても耐糖能に関与していることを示唆している。 3.ヒト褐色脂肪の活性化・増量による糖代謝状態の変化: 健康な成人5名を対象に、寒冷刺激で褐色脂肪が活性化する前後に経口糖負荷試験(OGTT)を行った。さらに、褐色脂肪増量効果をもたらすことが確認されているカプシノイドを6週間摂取する前後にOGTTを実施した。寒冷およびカプシノイド摂取により褐色脂肪活性は上昇し、耐糖能はわずかに上昇したが統計学的有意には達しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PET/CTはヒト褐色脂肪をほぼ非侵襲的に評価できるゴールデンスタンダードであるが、放射線被曝を伴うというデメリットもある。研究実績の概要1.で述べた通り、本年度の研究によりNIRS-TRSが褐色脂肪活性の新規評価法になり得ることを突き止めた。NIRS-TRSは無被曝な褐色脂肪評価法として評価され、この成果が北米肥満学会誌(Obesity)に掲載受理された。 また、研究実績の概要2.で述べたヒト褐色脂肪と糖代謝状態に関する知見は、褐色脂肪の糖尿病予防効果を示唆する新たな知見として、国際肥満学連合誌(Int J Obesity)に掲載された。 以上の成果は計画当初の期待通りのものであるものの、研究実績の概要3.で述べた通り、ヒト褐色脂肪の活性化・増量により糖代謝状態が改善するか否かについては明確な結論は得られておらず、さらなる検討が不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
まず本年度に明らかに出来なかった、非活性状態 及び 活性化状態のヒト褐色脂肪による耐糖能制御について検証を進める。現在までに5名の被験者を対象に寒冷および温暖条件にてOGTTを実施したが、この検証をさらに継続し、サンプル数を増やす。得られた結果から、寒冷刺激による耐糖能の変化と、その変化が褐色脂肪の活性化に起因するか否かを解析し、ヒト褐色脂肪の急性的な活性化が耐糖能に与える影響を判定する。 さらに、ヒト褐色脂肪を増量することにより耐糖能が改善するか否かを明らかにするため、褐色脂肪刺激成分であるカプシノイドを6週間摂取させる実験を継続し、その前後で温暖条件、および寒冷条件でOGTTを実施する。さらに褐色脂肪活性の変化もPET/CTを用いて調べる。寒冷刺激による耐糖能改善がカプシノイド慢性摂取で有意に上昇した場合、褐色脂肪の増量によって耐糖能が改善すると結論する。
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