メタボリックシンドロームの基盤病態として、肥満脂肪組織における慢性炎症が想定されているが、細胞内の炎症の慢性化機構は不明点が多い。申請者は、細胞記憶の観点から、エピジェネティック因子に注目し、マクロファージにおいて、転写抑制に関わるヒストンH3K9メチル化酵素ESET/SETDB1(以下SETDB1)が炎症性サイトカイン発現を負に調節することを予備的に見出した。本研究は、肥満脂肪組織におけるマクロファージSETDB1の病態生理的意義を探索し、エピジェネティック制御という切り口から肥満脂肪組織炎症の慢性化の分子機序を明らかにすることを目的とした。 初年度である昨年度は、in vitroにおいて、SETDB1がヒストンメチル化酵素活性を介してマクロファージにおける炎症性サイトカイン発現を抑制することを明らかにした。これにより、これまで全く明らかでなかったマクロファージSETDB1についての意義、SETDB1による炎症性サイトカイン発現制御機構が初めて明らかになった。 2年目である本年度は、生体での解析に主眼を置いた。昨年度のin vitroの解析結果を踏まえ、野生型およびマクロファージ特異的SETDB1ノックアウトマウス(KOマウス)を用いて、LPS投与の急性炎症モデルを作成した。KOマウスでは致死的なLPS投与での生存率が低下する傾向が認められた。肺および脾臓のIL6の発現量、血清中IL6分泌量がKOマウスで増加し、生体においてもSETDB1が炎症性サイトカイン発現抑制を担っていることが明らかになった。以上の結果から、肥満脂肪組織の炎症におけるSETDB1の機能を明らかにしていくための基礎的知見を見出すことができた。
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