研究課題
肝臓におけるインスリン抵抗性の病因として、酸化ストレス・小胞体ストレス・慢性炎症といった種々のストレスの重要性が指摘されている。しかし、肝臓でのストレス応答が、肝臓インスリン抵抗性および糖代謝異常に果たす役割については、必ずしも十分に解明されていない。ATF3(Activating transcription factor 3)は、肝臓においてストレス誘導性転写因子であり、代表者は肥満・糖尿病db/dbマウスや食事摂取において肝臓でのATF3発現が増強し、脂肪食負荷時に肝臓特異的ATF3欠損が耐糖能を改善することを見出している。これらのことは、高脂肪食摂取などによるストレス存在下において発現が増強されるATF3が、耐糖能異常やインスリン抵抗性に関与する可能性を示唆している。平成26年度は、肝臓ストレス応答におけるATF3の役割を検討するために、FLAG-tag付きATF3を発現するトランスジェニック(FLAG-ATF3-Tg)マウスの作出を試みた。Bacterial Artificial Chromosome (BAC)を用い、内因性ATF3プロモーターによりFLAG-ATF3が発現誘導されるように設計し、計10系統のFLAG-ATF3-Tgマウスを確立した。各系統のマウスに小胞体ストレス誘導剤であるツニカマイシンを投与し、5時間後の肝臓におけるATF3 mRNAおよびタンパク質発現を確認した。ツニカマイシン投与により、内因性ATF3と同レベルにFLAG-ATF3が発現誘導される系統を1コピーおよび10コピーのFLAG-tag付きATF3トランスジーンを有するマウスからそれぞれ1系統ずつ得ることに成功した。今後、作出したFLAG-ATF3-Tgマウスを用いて高脂肪食負荷条件における解析を行い、肝臓ATF3の肝糖代謝調節およびストレスに伴う肝障害における役割を解明する。
3: やや遅れている
FLAG-ATF3-Tgマウスにおける肝糖代謝の解析には、トランスジーンであるFLAG-tag付きATF3発現の確認が必須であるが、このトランスジーン発現と内因性のATF3発現の区別に難航したために進捗状況はやや遅れている。しかし、現在までにFLAG-ATF3-Tgマウスにおいて、これらの2つのATF3発現を分離して検出することに成功し、系統の選抜を終えることができた。解析に用いる系統を選抜できたことで今後速やかに本研究の目的である高脂肪食飼育下におけるFLAG-ATF3-Tgマウスの糖代謝解析およびその作用メカニズムの解析に取り組むことができると考えられる。
本研究課題は1)肝臓特異的ATF3欠損マウスおよびFLAG-ATF3-Tgマウスを用いたATF3の肝糖代謝調節における役割の解明とともに、2)肝臓ATF3の二量体形成におけるパートナーと転写制御標的分子の探索による作用メカニズムの解明を目的としている。現在までに、肝臓特異的ATF3欠損マウスおよびFLAG-ATF3-Tgマウスの作出に成功していることから、今後これらの目的について解析を進める。具体的には、肝臓ATF3発現が低い通常飼料飼育条件、および、ストレスが誘導されATF3発現が上昇する高脂肪食飼育条件において、FLAG-ATF3-Tgマウスの糖負荷・インスリン負荷試験を行い、FLAG-ATF3-Tgマウスにおける個体糖代謝を評価する。また、ATF3は様々なタンパク質と二量体を形成して働くことから、高脂肪食飼育条件においてATF3と二量体を形成する分子を抗FLAG抗体を用いた免疫沈降法および質量分析により解析する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Hepatology
巻: 61 ページ: 1343-1356
10.1002/hep.27619