研究課題
肝臓におけるインスリン抵抗性の病因として、酸化ストレス・小胞体ストレス・慢性炎症といった種々のストレスの重要性が指摘されている。しかし、肝臓でのストレス応答が、肝臓インスリン抵抗性および糖代謝異常に果たす役割については、必ずしも十分に解明されていない。平成27年度は昨年度に引き続き肝臓におけるストレス応答、特に小胞体ストレスが肝臓糖代謝に及ぼす影響について検討を行った。初代培養肝細胞への小胞体ストレス誘導剤であるツニカマイシンの添加は、ストレス誘導性転写因子であるActivating transcription factor 3 (ATF3) タンパク質発現量を増加させることを確認した。また、初代培養肝細胞へのツニカマイシン処理は、IL-6によるsignal transducer and activator of transcription 3 (STAT3)のリン酸化を抑制した。STAT3は、IL-6刺激によりリン酸化されて活性化型となり、肝糖新生系酵素遺伝子G6paseの遺伝子発現を抑制する転写因子として知られる。実際に、IL-6刺激によるSTAT3のリン酸化を介するG6pase遺伝子発現の抑制効果は、ツニカマイシン処理下においては減弱した。IL-6依存性のSTAT3のリン酸化およびG6pase遺伝子発現の抑制作用は、小胞体ストレス誘導下では減弱したが、小胞体ストレスを軽減する化学シャペロンPBAの添加によって回復した。さらに、小胞体ストレスが増加している肥満・糖尿病モデルであるdb/dbマウスにおいてもSTAT3のIL-6に対する応答性が低下していたが、PBAの投与により野生型マウスのSTAT3と同様のレベルまで回復した。これらのことから、小胞体ストレスのSTAT3活性化抑制作用が、肝臓におけるストレス応答が引き起こす糖代謝異常の要因の一つであることが明らかとなった。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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