研究課題/領域番号 |
26860707
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
沖 健司 広島大学, 大学病院, 病院助教 (30638995)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルドステロン合成酵素 / 原発性アルドステロン症 / 細胞内カルシウム伝達 / G蛋白共役受容体 |
研究実績の概要 |
今日まで,約半数のアルドステロン産生腺腫の原因やアルドステロン合成機序は全く解明されていない.本研究では,未解明のアルドステロン産生腺腫のアルドステロン合成機序を解明し,本疾患の新規治療薬・診断薬の創薬,またアルドステロン合成阻害による降圧薬の創薬につなげることを目的とする. アルドステロン産生腺腫における新規アルドステロン合成機序を解明するため,アルドステロン合成機構が解明されていない (いわゆる,既知の遺伝子変異をもたない) 腺腫を対象に網羅的遺伝子発現解析を行った.その対照としてアルドステロンを産生しない非機能性副腎皮質腺腫および遺伝子異常をもつアルドステロン産生腺腫 (KCNJ5およびATP1A1) に対しても同様の遺伝子発現解析を実施した. 過去の報告から,アルドステロン合成において細胞内カルシウムを増加させることや,細胞内カルシウム伝達機構が重要であることが報告されている.遺伝子変異をもたないアルドステロン産生腺腫において,細胞内カルシウムに関連した遺伝子発現を統計解析ソフトを用いて検索したところ,細胞内カルシウム調節に関わる複数の遺伝子が同定された. また,他の過去の報告から,アルドステロン産生腺腫に異所性G蛋白共役受容体 (GPCR) 発現がアルドステロン合成に関与することが報告されていることから,GPCRを標的にアルドステロン産生腺腫で発現する遺伝子検索も行い,複数の候補GPCRを同定することができた. 続いて,高発現していた遺伝子のmRNAや蛋白発現量を確認するため,real time PCRや免疫染色で確認したところ,それらの発現がアルドステロン合成の律速酵素であるCYP11B2発現と強い相関があることやCYP11B2発現部位に染色されることを同定し,アルドステロン合成に深く関わっていると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における,平成26年度の研究計画では,①アルドステロン産生腺腫や非機能性副腎皮質腺腫から腫瘍組織の抽出,②摘出した組織を用いてマイクロアレイ解析(網羅的遺伝子発現解析)を実施,③マイクロアレイ解析結果からアルドステロン合成に関わる新規因子の同定,を予定していた. ①に示した,「アルドステロン産生腺腫や非機能性副腎皮質腺腫から腫瘍組織の抽出」に関しては,研究実績の概要に示したように,アルドステロン産生腺腫からアルドステロン合成酵素 (CYP11B2) が発現する箇所を標的にmRNA抽出を行った.また,非機能性副腎皮質腺腫において,CYP11B2の発現がないことを確認した上で,mRNA抽出を行った. ②に示す「摘出した組織を用いてマイクロアレイ解析を実施」についても,研究実績概要に示した通り,アルドステロン産生腺腫と非機能性副腎皮質腺腫の検体を用いて,マイクロアレイ解析による網羅的遺伝子発現解析を実施した. ③に示す「マイクロアレイ解析結果からアルドステロン合成に関わる新規因子の同定」であるが,過去の報告や我々が独自に有しているマイクロアレイ解析の結果と比較解析することにより,アルドステロン合成に強く関わっている可能性のある複数の候補遺伝子を抽出することができている.さらに,その発現解析をreal time PCRや免疫染色などで確認している. つまり,当初予定した計画通りに研究が進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
In vitroで,同定した新規因子の詳細なアルドステロン合成機構を解明 新規に同定した因子の拮抗薬,阻害薬,刺激薬を用い,副腎皮質癌細胞株 (H295RまたはHAC15) を用いて,ステロイド合成酵素やアルドステロン合成に与える影響を,CYP11B2発現をreal time PCRで同定し,上清のアルドステロン値をELISA法を用いて解析する.アルドステロン値に影響する結果が得られた場合,細胞膜電位の測定や細胞内カルシウム濃度の測定が必要となるが,応募者の過去の報告 (Endocrinology 153:1774-81, 2012) を応用し,蛍光蛋白や色素などを用いて機能解析を進めていく. さらに,生理的なアルドステロン合成の評価に与える影響を検討するため,アルドステロン合成を促進するアンギオテンシンIIを用いてin vitroでの解析を進める.アンギオテンシンIIの受容体刺激を対象として,dominant negative効果を発揮する蛋白のknock inや受容体阻害薬を使用し,新規因子がステロイド合成酵素やアルドステロン合成などに与える影響についても解析する. また,新規に同定した因子のクローニングを行い,さらに,市販されているshRNA用のplasmidを購入することにより,レンチウイルスを用いた遺伝子導入をHAC15やH295Rに実施し (over-expressionとknock-down),アルドステロン合成に与える影響を上述と同様の方法を用いて評価する.最終的に,上述のの方法を組み合わせ,新規因子によるシグナル伝達やアルドステロン合成機序を詳細に検討する.
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