研究課題
転写因子GATA-2は、hematopoietic stem cell (HSC)の維持・増殖に必須の転写因子である。再生不良性貧血のCD34陽性細胞においてGATA-2の発現が特異的に低下していること、GATA-2がHOXB4遺伝子の発現を制御していること、さらにGATA-2が骨髄微小環境の構築に重要な間葉系幹細胞・前駆細胞の脂肪細胞への分化を制御していることが示されている。これらの知見は、骨髄におけるGATA-2の発現異常は造血幹細胞・間葉系幹細胞の機能異常をもたらし、血液疾患の発症に至ることを示唆する。 2011年にHsuらが免疫不全を経てMDS/AMLを発症するMonoMAC症候群の責任遺伝子がGATA-2であることを報告し、GATA-2の先天的変異は造血不全にとどまらず、急性白血病にまで至ることが明らかになった。免疫応答の中心的役割を担う細胞は樹状細胞(DC)であること、MonoMAC症候群で減少・欠損している細胞の一つがDCであることから、MonoMAC症候群の病態解明にはDCの分化・機能におけるGATA2の役割を明らかにすることが必須である。本研究ではこれまでに、条件つきGATA-2 KOマウスを用いることで、GATA-2は造血幹細胞からcommon myeloid progenitor (CMP)、そしてcommon dendritic cell progenitor (CDP)に至る骨髄球系分化経路において重要な役割を果たしていることを見出している。さらに、GATA-2KOによる遺伝子発現の変化をマイクロアレイで確認し、GATA-2が制御する転写因子の同定を進めている。
2: おおむね順調に進展している
DCの分化におけるGATA-2の関与を解析するためにGata2ヘテロ不全マウス、並びにGata2の第5エクソンの両端にloxp配列が導入されたGata2f/fマウスとER-Creマウスを交配することにより作成した条件付きGATA-2 KOマウス( Gata2f/f/ER-Creマウス)を用いた。Gata2ヘテロ不全マウスの解析ではDC分化にかかわる骨髄前駆細胞や脾臓のDC割合には有意な変化は認められなかった。一方、in vivoにおいてタモキシフェンを投与したGata2f/f/ER-Creマウスの解析では骨髄前駆細胞はほぼ消失し、脾臓におけるDCの割合は著明に低下した。しかしながら、GATA-2 KOによるHSCの枯渇によるものか、GATA-2がDCの分化を制御していることによるものかは不明であった。このため、DCの分化に関与する骨髄前駆細胞をsortingにより分取し、GATA-2をKOしDCへの分化誘導を行うin vitro培養系を確立した。その結果、lineage-Sca-1+c-kit+ 細胞 (LSK)、common myeloid progenitor (CMP)そしてcommon dendritic cell progenitor (CDP)におけるGATA-2 KOによりDCの産生が低下した。このことから、GATA-2は造血幹細胞からCMP、そしてCDPに至る骨髄球系分化経路において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。GATA-2により調節を受ける遺伝子を同定するために施行したマイクロアレイ解析では、DC分化誘導刺激下で培養したCMPにおいてGATA-2をKOすることより骨髄球系細胞分化で転写が促進される遺伝子群の低下とリンパ球系細胞分化で転写が促進される遺伝子群の上昇を認めた。
マイクロアレイ解析結果から、GATA-2は骨髄球系細胞の分化に関連する遺伝子群の発現を促進し、リンパ球系細胞分化に関連する遺伝子群の発現を抑制している可能性が考えられた。GATA-2 KOにより発現の変動が認められた遺伝子群のうち、我々はGATA-3とTCF-7に注目した。これらの遺伝子はT細胞分化において重要な役割を担う転写因子である。GATA-2は骨髄球系前駆細胞においてこれらの転写因子の発現を抑制して、骨髄球系細胞としての正常な分化を支持している可能性が考えられた。この仮説を証明するために、CMPをT細胞分化環境で培養し、GATA-2をKOすることによるT細胞への分化の有無を解析することを計画した。本来、骨髄球系前駆細胞はリンパ球系細胞を産生することはないが、上記仮説が正しければGATA2 KOにより細胞運命のreprogrammingがなされT細胞の産生が認められる可能性が考えられる。さらには、GATA-2がGATA-3、あるいはTCF-7の転写を直接制御している可能性を解析することを計画した。具体的には、ChIP-Seq法により、GATA-3あるいはTCF-7の転写調節領域に対するGATA-2の直接的な結合を調べ,直接的な結合が認められた際にはGATA-2結合領域とGATA-3あるいはTCF-7のプロモーター領域を含むベクターによりルシフェラーゼアッセイを行うことを計画している。
物品納品の遅延によって生じたものである
物品納品に必要な経費として平成27年度請求額と合わせて使用する予定である
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Annals of Hematology
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10.1007/s00277-014-2090-4
Haematologica
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