研究課題
申請者はこれまで巨核球造血及び血小板機能のメカニズムの解明を主たる研究分野として研究に取り組んできた。その過程で巨核球・血小板と骨髄間質細胞・血管内皮細胞の接着を制御する可能性のある分子として calpain, p38MAPK などいくつか見出した。そこで、これらノックアウト(KO)マウスを用いて巨核球造血及び血小板機能における役割を検討した。まず野生型(WT)マウスより精製した巨核球に calpain 阻害剤 ALLN を添加し培養したところ、巨核球胞体突起形成(prpplatelet formation:PPF)が濃度依存性に抑制された。そこで、calpain の内在性阻害タンパクである calpastatin のKOマウスを用いて検討を行ったところ、WT と KO 巨核球でPPF に差は認められなかった。次に、5-FU を投与し、造血幹細胞から巨核球への分化及び血小板産生能を評価したところ、血小板回復期の巨核球 ploidy は WT と比較してKO で未熟巨核球が増加し、骨髄内巨核球の割合も KO で増加していた。これらの結果から、calpastatin は巨核球造血を制御する分子である可能性が示唆された。次に、血栓症の予防及び治療法の確立をめざし、血小板機能を制御する分子を探索した。なかでも近年脳外科手術において洗浄液として用いられる人工髄液を使用する際、生理食塩水を使用した場合と比較して止血が速やかに行われることが報告されている。そこで、人工髄液の成分をもとに血小板機能を制御する分子を探索したところ、sodium bicarbonate が血小板凝集能を増強するが凝固には影響しないことを見出した。またflow cytometry を用いた解析により血小板膜タンパクである GPIIbIIIa の活性化や PS Exposure 陽性血小板の割合や血小板あたりの P-selectin の発現を sodium bicarbonate は増加させ、出血時間を短縮することを見出した。また、この活性化の増強は、血小板内の Src-PLCgIIの活性化を増強することによって行われていることも明らかにした。
3: やや遅れている
本来当該年度は申請者のこれまでの検討から巨核球造血及び血小板機能を制御する可能性が示唆されている DNAM-1 について KO マウスを用いて検討を行う予定であった。平成26年度に増殖したマウスの遺伝子型を検討したところ、繁殖したほとんどのマウスがヘテロマウスであり、研究を遂行するのに十分な KO マウスを準備できなかった。そこで、該当年は、得られた DNAM-1 KO マウスを用いた予備検討を行いながら、他のターゲットである calpastatin について KO マウスを用いて巨核球造血における役割について検討した。その結果、5-FU 投与後の血小板回復期において未熟巨核球が増殖し、さらには骨髄内巨核球が WT と比較して KO で増加していることが明らかとなり、calpastatin が巨核球造血を制御する分子である可能性が明らかとなった。そこで、現在もcalpastatin KO マウスを用いて巨核球造血、特に巨核球への分化における calpastatin の役割を継続して解析中である。また、DNAM-1 KO マウスについても繁殖率の高いペアより KO マウスを得て、繁殖を進めるなど次年度に向けて準備を進めている。また、血栓症の予防及び治療法の確立をめざし、血小板機能を制御する分子を探索したところ、sodium bicarbonate が血小板機能を増強させる分子であることを明らかにした。そこで、現在も、sodium bicarbonate の血小板機能への役割や応用について検討中である。
巨核球造血における calpain-calpastatin 系の役割を明らかにするためには、calpastatin KO マウスを用いて calpastatin KO 造血幹細胞または巨核球のさらなる解析が必須であると考えており、今後は骨髄内に少数かつ脆弱である巨核球を採取し、calpain-calpastatin 系を中心にどのようなシグナル情報伝達系により巨核球造血が制御されているかを免疫細胞染色や flow cytometry を用いて検討する予定である。DNAM-1 の役割についても、現在殖率の高いペアより KO マウスを得て、繁殖を進めており、研究を遂行するのに十分な KO マウスを準備中である。また、申請者は本年度血小板機能を増強する可能性のある分子として sodium bicarbonate を見出した。手術における迅速な止血は、手術中の明瞭な視野の確保及び安全に手術を行うために必須あることから、今後は血栓症の予防及び治療法の確立を目指して、血小板機能における sodium bicarbonate のさらなる役割などについて検討を行う予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
Neurosurgery
巻: 78 ページ: 274-284
10.1227/NEU.0000000000001058