研究課題
悪性リンパ腫細胞が特定の節外臓器に浸潤するメカニズムを解明するために、平成26年度においては、血管内と中枢神経に病変を形成する悪性リンパ腫に着目して各臓器への浸潤を規定する候補遺伝子を検討した。血管内や中枢神経に病変を形成する悪性リンパ腫については、患者の生検検体より十分な腫瘍細胞を得ることが困難であることから、重症免疫不全マウス(NOGマウス)異種移植モデルを用いて検討した。血管内大細胞型B細胞リンパ腫について、樹立された4例の異種移植モデルの脾臓より得られた腫瘍細胞を、ヒトCD19抗原を指標として純化し、純化された腫瘍細胞より全RNAおよびゲノムDNAを抽出した。抽出された全RNAの網羅的遺伝子発現解析を行い、正常対照と比較して発現変化を認めた遺伝子を統計学的に抽出した。多くは腫瘍化に関与する細胞増殖・細胞周期などに関連する遺伝子群であったが、細胞接着及び遊走に関連する遺伝子群の発現変化が認められており、現在これらの遺伝子群の妥当性を検討している。また抽出されたゲノムDNAを用いて網羅的遺伝子変異解析を施行し、B細胞リンパ腫に関連する遺伝子群の遺伝子変異を検出している。今後詳細な検討を進め、病態に関連する責任遺伝子の決定に努める。中枢神経に病変を形成する悪性リンパ腫に対しても、異種移植モデルを用いて検討を加えた。腫瘍細胞を経静脈的に異種移植し、脾臓や骨髄及び中枢神経に有意な病変を形成するマウスモデルを用いて、各臓器に生じた腫瘍細胞の採取を試みた。当初、脳の凍結切片を抗PAX5抗体にて免疫染色し、染色された腫瘍細胞をレーザーマイクロダイゼクション法にて採取することを試みたが、十分量かつ良質なRNAを得るのが困難であった。現在は中枢神経に直接腫瘍細胞を移植し生着する腫瘍細胞を得る方法も並行して検討を加えている。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度においては、血管内に選択的に腫瘍細胞が浸潤する血管内大細胞型B細胞リンパ腫について検討を進め、樹立されている異種移植モデルよりヒトCD19陽性腫瘍細胞を採取し、網羅的遺伝子発現解析を行った。発現解析では、細胞接着及び遊走に関連する遺伝子群の発現変化を見出しており、現在それらの遺伝子群の妥当性を検討している。網羅的遺伝子変異解析についても結果が得られており、病態関連遺伝子の決定に努めている。リンパ腫細胞と間質細胞との相互作用についても、分泌蛋白の観点から検討を進めており、生存に関与する数種類の分泌蛋白について絞り込みが進んでいる。これらの観点では研究は概ね順調に進捗していると考える。中枢神経に腫瘍細胞が浸潤するメカニズムの解明については、マウスモデルより必ずしも十分な腫瘍細胞を得ることが出来る訳ではなく、凍結検体より作成した切片より、レーザーマイクロダイゼクション法を用いて腫瘍細胞を採取している。腫瘍細胞を同定するためにPAX5による免疫染色を行い、腫瘍細胞以外の混入を避けるように努めている。十分な質と量のRNAを採取するために、より洗練された手法を検討するとともに、腫瘍細胞を中枢神経に直接移植する方法についても並行して検討し、中枢神経に生着する細胞が得られるかどうか検討している。中枢神経に浸潤するリンパ腫について一層の検討を進めていく。
平成27年度以降については、研究が進捗している血管内に腫瘍細胞が浸潤する血管内大細胞型B細胞リンパ腫の病態関連遺伝子の候補を絞り込み、その妥当性の検討を進めていく。腫瘍細胞と血管内皮細胞との相互作用についても、腫瘍細胞と間質細胞との相互作用の検討の結果明らかとなった分泌蛋白を中心に、腫瘍細胞の支持作用の検討を進めていく。同一個体の各臓器に浸潤した腫瘍細胞のクローン性の検討については、現在当教室内において免疫グロブリン遺伝子の再構成を利用したクローン性の解析に着手しており、この系を利用して各臓器に浸潤した腫瘍細胞のクローン性の検討を進めていく。中枢神経に浸潤するリンパ腫に対しては、レーザーマイクロダイゼクション法及び直接移植法など複数の方法を検討し、より適切な系の確立に努めて研究の進捗に努めていく。
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