研究課題
平成27年度においては、平成26年度に引き続いて、血管内と中枢神経に病変を形成する悪性リンパ腫に着目して検討を進めた。血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)については、樹立された異種移植モデルの解析により、腫瘍細胞が臓器の内皮細胞に接触して増殖を開始することが観察され、マウスモデルより得られた腫瘍細胞のアレイCGH解析、網羅的遺伝子発現解析より、IVLBCLがABC-like DLBCLと類似するゲノムコピー数異常及び遺伝子発現プロファイルを持つことを確認した。また、GSEA解析より細胞遊走に関わるミオシン経路関連遺伝子群の発現がIVLBCL細胞で抑制され、転写因子E2F3に関連する遺伝子群の発現が亢進していることを確認した。さらにマウスの同一個体の脾臓、骨髄、腎臓、副腎における腫瘍細胞のゲノムコピー数に差異が生じ、各臓器に浸潤する腫瘍細胞に違いが見られることを見出した。これらの知見について学術誌に報告した(Shimada et al. Leukemia 2016)。中枢神経に病変を形成する悪性リンパ腫については、経過中に中枢神経浸潤を来したDLBCL患者由来腫瘍細胞より異種移植マウスモデルを樹立した。当初、中枢神経に浸潤した腫瘍細胞を、レーザーマイクロダイゼクション法にて採取することを試みたが、解析に十分な量の検体を得ることが困難であった。その後、移植細胞の投与経路の工夫により、十分量の腫瘍細胞を得ることが出来る中枢神経浸潤マウスモデルを樹立することに成功した。そこで、患者由来腫瘍細胞を移植し中枢神経と腹部臓器に生着した腫瘍細胞をセルソーター及び磁気ビーズを用いて純化し、網羅的遺伝子発現解析を行った。現在結果を解析しているが、GSEA解析において、興味深い遺伝子群に差異が認められており、今後妥当性について検討を加えていく。
2: おおむね順調に進展している
血管内に腫瘍細胞が浸潤するメカニズムについては、IVLBCLの異種移植モデルの作製及び解析により、IVLBCLの腫瘍細胞起源が記憶B細胞であり、内皮細胞をニッチとしている可能性が高いことを見出した。また、ゲノムコピー数異常と遺伝子発現プロファイルからIVLBCLの腫瘍細胞がABC-like DLBCLに類似していることを確認した。さらに、特定の転写因子及び細胞遊走に関連する因子の異常が病態に関連する可能性を見出した。網羅的遺伝子変異解析についても引き続き検討を進めており、病態関連遺伝子の解明に努めている。IVLBCLの腫瘍細胞は短時間では臍帯静脈内皮細胞上で培養が可能であるものの、詳細な検討を進めていくために、より長時間の培養を可能とする系が必要であり、現在その系の確立についても着手している。これらの観点からは概ね順調に推移していると考える。中枢神経に腫瘍細胞が浸潤するメカニズムの解明については、当初のレーザーマイクロダイゼクション法を用いて腫瘍細胞を採取することを試みたが、十分量な検体を得ることが困難であった。移植細胞の投与経路の工夫により、十分量の中枢神経浸潤を来した細胞を得ることが出来るマウスモデルの樹立に成功しており、現在その系を用いて検討を進めている。中枢神経と腹部臓器に生着した腫瘍細胞の比較解析により、興味深い結果が得られており、今後この結果の妥当性について検討を進めていく予定である。中枢神経に浸潤するマウスモデルの確立に時間を要したが、概ね順調に推移していると考えている。
本研究課題は今年度が最終年度であり、臓器指向性のメカニズム解明のための更なる研究を進めていく。IVLBCLモデルについては、網羅的遺伝子変異解析の検討を進めると共に、より詳細な検討を可能とする培養系の確立に努め、腫瘍細胞と支持細胞との相互作用の解明と治療法の探索について検討を進める。中枢神経浸潤のメカニズムの解明については、中枢神経と腹部臓器に浸潤した腫瘍細胞の比較解析より興味深い結果が得られており、今後この結果の妥当性について検討を進めていく。またIVLBCLと同様にin vitroでの培養系の確立に着手し、支持細胞との相互作用の解明及び治療法の探索について着手していく。
中枢神経に浸潤する腫瘍細胞を十分量得られるマウスモデルの樹立に工夫を要し、中枢神経に浸潤した腫瘍細胞と腹部臓器に浸潤した腫瘍細胞との比較が予定よりも遅れ、成果発表が次年度になったため。
国際学会での発表における旅費に充当する予定。
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Leukemia
巻: in press ページ: in press
10.1038/leu.2016.67