われわれの哺乳動物ゲノムに関する知見は、次世代シークエンサーの進歩に伴い飛躍的に進歩した。しかし2万を超える遺伝子の中で現在その機能が明らかとされているものは約3分の1に過ぎない。特に造血系は多くの遺伝子が精密に制御されることによって成り立ち、関係する遺伝子の機能を一つでも多く明らかとすることは、再生医療などの観点より有用と考えられる。 研究代表者は、以前所属していた研究室が独自に有するマウスホモ変異ES細胞ライブラリーをスクリーニングし、一つの機能未知の遺伝子(未発表データのため遺伝子Xと記載)の変異体が著しい血球分化障害を示すことを見出した。さらにこの遺伝子のノックアウトマウスは胎生6.5日において致死であった。本課題では、Cre発現マウスとしてVav1-creマウスを使用し、この遺伝子の造血細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作製した。コンディショナルノックアウトマウスは胎生後期に著名な貧血を認め致死であった。E14.5の胎児肝の解析では赤芽球系細胞の有意な減少を認め、また造血幹/前駆細胞分画のコロニー形成能が著名に低下していた。 遺伝子Xの産物は核タンパク質であり、この遺伝子は種々の遺伝子の発現に影響を及ぼしていると考えて、野生型細胞と変異型細胞間で遺伝子発現を比較した。マイクロアレイ解析の結果、変異型細胞において細胞周期制御因子であるp21やアポトーシスに関与するPerp遺伝子の発現上昇を認めた。さらに、E14.5胎児肝から採取した造血幹/前駆細胞を培養するとコンディショナルノックアウトマウス由来の細胞において、アポトーシスが観察された。 以上より、遺伝子Xは造血系において重要な役割を果たしていることが明らかとなり、研究代表者らは遺伝子XをAhed (affected hematopoietic development)と名付けた。
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