研究課題/領域番号 |
26860735
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長町 安希子 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (20585153)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 骨髄異形成症候群 / -7/7q- |
研究実績の概要 |
AMLやMDSで見られる染色体異常のうち、-5/5q-、-7/7q-、20q-などのモノソミーや染色体大領域欠損では、染色体上の広い範囲にまたがる複数の遺伝子の片アレル欠失に伴うハプロ不全が病態促進に深く関与する可能性が示され注目されている。本研究では人工ヌクレアーゼ技術であるCRISPR/Casシステムを用いて、7番染色体長腕欠失(7q-)の近接する4つの責任遺伝子Samd9L, Samd9, Miki, CG-NAP、及びその周辺領域のヘテロ欠損マウスを作製し解析することにより、7q-がMDSやAMLの発病を促進するメカニズムを解明することを目的とする。まず始めにCRISPR/Casシステムの確立のため、Centrin-1をコードするCetn1遺伝子を導入したCRISPR/Casプラスミドをin vitroの系で切断効率を評価したのち、C57BL/6マウスの受精卵前核にマイクロインジェクションしCent1遺伝子欠損マウスの作出を試みた。その結果2匹のCent1遺伝子欠損マウスが得られ、遺伝子配列を確認したところ、それぞれCetn1遺伝子座に2塩基と15塩基のdeletion変異が生じており、CRISPR/Casシステムが正常に立ち上がったことを確認した。続いてMikiとCG-NAPのCRISPR/Casプラスミドを作製し、C57BL/6マウスもしくはSamd9Lホモ欠失マウスの受精卵にマイクロインジェクションを行い、現在CG-NAP遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki遺伝子欠損マウスの作製が進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はCRISPR/Casシステムの立ち上げを行ったところ、2匹のCetn1遺伝子欠損マウスの作出に成功し、システムが正常に動くことを確認した。しかし200個以上のC57BL/6マウスの受精卵にインジェクションを行ったにもかかわらず得られた産仔はCetn1遺伝子欠損マウス2匹のみで、変異は高効率に挿入されているが得られる産仔の数が少ないため想定以上の時間を要することが分かり、効率よく産仔を得るための実験系の至適化を行う必要があった。そこでCetn1以外に数個の遺伝子のCRISPR/Casプラスミドを作製し、精製方法や受精卵へのプラスミド注入量、またレシピエントマウスへの受精卵移植方法などの手技的な調整を行うとともに、オフターゲット変異の挿入解析を進めた。条件検討が必要となる動物実験を優先させた結果、CG-NAP遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki遺伝子欠損マウスの解析に遅れが見られるが、CRISPR/Casプラスミドの作成やインジェクションは進んでおり、遅れながらも研究は進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は作出した(1)CG-NAP遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki遺伝子欠損マウスの解析を進めるとともに、並行してSamd9L/Miki/CG-NAP遺伝子欠損マウスの作製と(2)7番染色体大領域欠失マウスモデルの作製を進める。 (1) CG-NAP遺伝子欠損マウスは血液細胞で小核や多核、異型性細胞の発生が推測されることから、骨髄細胞を用いてα-Tubulinとγ-Tubulinの免疫蛍光染色を行い、分裂細胞の中心体成熟と紡錘糸の伸長を確認し、分裂異常の有無を調べる。また定期的に末梢血・骨髄像を観察しながら長期観察を行い、白血病発症への関与について検討する。加えて、移植実験とコロニーアッセイにより、造血幹細胞の分化・増殖能を検討する。Samd9L/Miki遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki/CG-NAP遺伝子欠損マウスについては、Samd9L遺伝子欠損単独で発症するMDSの発症速度や発症頻度、表現型に影響を及ぼすかどうか確認するとともに、造血幹細胞の特性についてフローサイトメトリー解析や移植マウスモデルの作製を行い検討を進める。 (2) 染色体大領域欠失(7q-)マウスモデルの作製については、欠失させたい領域の両端にそれぞれ設計した2つのCRISPR/Casプラスミドをマウス受精卵前核に同時にマイクロインジェクションすることを計画していたが、現在の手法では作出が困難であることが予想されるため、CRISPR/CasプラスミドをgRNAにしたのちインジェクションする手法に切り替えて欠失効率を検討する。並行して、マウスだけではなく白血病細胞株であるHL-60細胞とヒトiPS細胞でCRISPR/Casシステムによる7番染色体の大領域欠失モデルを作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はCRISPR/Casシステムの立ち上げが想定以上に困難で手技的な調整を進めた結果、CG-NAP遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki遺伝子欠損マウスの解析に遅れが生じたことから、想定していた遺伝子改変マウスの解析に使用する予定であったフローサイトメトリーや免疫蛍光染色に使用する抗体などの消耗品の購入の遅れや、成果発表を予定していたで海外学会への不参加により未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
CG-NAP遺伝子欠損マウスの解析を進めるためには、造血細胞の分裂期の中心体成熟と紡錘糸の伸長確認と、分裂異常の有無を調べる必要があるため、α-Tubulinとγ-Tubulinの抗体の購入やFISHプローブキットを購入する必要がある。Samd9L/Miki遺伝子欠損マウスとSamd9L/Miki/CG-NAP遺伝子欠損マウスの解析では、造血幹細胞の特性を検討するためのフローサイトメトリー染色試薬や、骨髄移植モデル作製のためのサイトカインや造血細胞培養試薬、トランスフェクション試薬、レシピエントC57B6マウスを購入する必要がある。さらに、染色体大領域欠失モデルの作製に伴う特殊な細胞培養試薬やプラスミドを購入する必要がある。また、これらの研究で得られた結果を学会等で発表するために旅費や学会参加費が必要となる。
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