研究課題
本年度において、申請者は主に、高いヒト造血幹細胞(HSC)支持能を有する、ヒト骨髄由来CD45-Lin-CD271+SSEA-4+分画より得られた間葉系幹細胞(DP MSC)による、HSC支持機構の解析を行った。最初に、DP MSCと他の分画より得られたMSCとの間で、既知のHSC支持因子の発現の差を、qRT-PCRにて解析した。その結果、DP MSCは他のMSCと比較し、IGF-2、Jagged-1、Wnt3aおよびTGFβ3を高く発現していることが明らかとなった。次いで、これらの既知のHSC支持因子を培養系に添加し、そのHSC支持効果を検討した。その結果、IGF-2およびJagged-1は、1週間の培養系において、HSC支持能を示した。しかしながら、その効果は、DP MSCのHSC支持能と比較すると、非常に小さいものであった。このことから、DP MSCによる、HSCの支持は、他の接触性シグナルを介して行われていることが示唆された。現在、スクリーニングにより見出した、DP MSCによるHSC支持能阻害効果を有する、モノクローナル抗体(mAb4.4.1)の抗原の同定を、質量分析により進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
申請時の研究計画では、初年度にゲノム編集技術を用いて、ヒトHSCおよびMSCの遺伝子改変技術を確立する予定であった。しかしながら、現時点において、未だ技術の確立はできていない。これは、作製した抗体ライブラリーの中から、DP MSCによるHSC支持能を大きく阻害する抗体が見つかり、そちらの抗原同定を優先しているためである。この抗原同定も、後1か月程度で終わる目途がついている。そのため、申請書の計画と順番は前後するものの、今後、HSCにおけるゲノム編集技術の確立は速やかに行う予定であり、全体としての進捗速度は、おおむね予定通りである。
最終年度である、今年度の研究計画以下のとおりである。最初にCRISPER/Cas9システムによる、ヒトHSCからのCD34遺伝子のノックアウトを試みる。具体的には、ヒトCD34遺伝子の第1エキソンをターゲットとしたコンストラクトを作製する。次いで、ヒト骨髄由来18Lin-CD34+CD38-CD133+細胞およびヒト臍帯血由来18Lin-CD34+CD38-CD133+および18Lin-CD34-CD133+細胞より、CD34遺伝子をKOした後、重症免疫不全マウスに移植する。また、対照群として、コントロールベクターを導入したHSCの移植も行う。その後、各HSC移植群間で、長期骨髄再構築能および多分化能を比較解析し、HSCの多分化能および自己複製能に対するCD34抗原の機能を評価する。また、DP MSCによるHSC支持因子受容体が質量分析により明らかになった後には、同様の方法でHSC上に発現するこの支持因子受容体をKOした後、マウスへ移植することにより、その機能解析を行う。以上により、申請時当初の目的は遂行できるものと考えられる。
当該年度の繰り越しはおよそ10万円であり、予定額の1/10にあたる。これは、ゲノム編集を行う予定であったものを、次年度の予定と順番を入れ替えたため、これに掛かる費用の一部が未使用なためである。
上記、ゲノム編集技術にかかわる試薬等の購入代金として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件)
Stem Cells
巻: 33 ページ: 1554~1564
10.1002/stem.1941.
Blood Cancer Journal
巻: 5 ページ: e290
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