これまで、炎症性サイトカインTNF-αが時計遺伝子の発現機構に及ぼす影響を明らかにするため、関節リウマチ初代培養系滑膜細胞を用いて研究を行ってきた。平成27年度の研究成果として、 (1)TNF-αにより時計遺伝子Bmal1のmRNA発現量は増加していたが、発現リズム(位相)は未刺激群と同様のリズムを示していた。すなわち、TNF-αはBmal1の発現量にのみ作用し位相には作用しない。 (2)そこでBmal1を転写調節する転写活性因子RORαと転写抑制因子Reverbαを見てみると、RORαはTNF-αによって恒常的に増加する一方、Reverbαは一時的に減少するものの発現の位相は保たれていた。したがって、RORαの増加がTNF-αによるBmal1の増加に重要であることが示唆された。 (3)また、TNF-αは細胞内Caの流入を亢進させることから、Caシグナル伝達を阻害するとTNF-αの作用を無効化できるのではないかと考えた。まずCaキレート剤により細胞内Ca濃度を低下させると、Reverbαは発現の位相が72時間をかけて1回のようなリズムを示し、通常24時間で概ね1回の位相が完全に失われた。またRORαは恒常的に増加しており、その結果Bmal1も72時間をかけて1回の位相、そして発現量も増加したままであった。Cn阻害を行っても上記のような現象は起こらなかった。 (4)次にCaキレート剤によって細胞内Ca濃度を低下させた状態でTNF-α刺激すると、RORα、Bmal1の増加が部分的に抑制された一方、Cn阻害剤では抑制されなかったため、これらの作用は転写因子NFAT非依存的な現象であることが示された。興味深いことに、細胞内Ca濃度を低下させた状態でもTNF-αによるBmal1への作用はわずかに残っており、Caシグナル伝達以外の発現機構も存在する可能性が示唆された。
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