研究課題/領域番号 |
26860760
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
波多野 良 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 日本学術振興会特別研究員(PD) (30638789)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CD26 / CD26/DPPIV / T細胞 / 共刺激 / 自己免疫疾患 / SLE / IL-10 / ヒト免疫 |
研究実績の概要 |
1. 全身性エリテマトーデス(SLE)は発熱や全身倦怠感、皮膚の発疹や関節炎等の症状を伴う全身性の自己免疫疾患で、重症例ではさらに腎臓や中枢神経、血管の障害が起こり症状は多岐にわたるが、その発症原因や発症機構の詳細は不明である。本研究では、細胞傷害性T細胞も強力に活性化する共刺激分子CD26に着目し、まずSLE患者の末梢血CD8 T細胞におけるCD26の発現パターンとCD26陽性・陰性画分のサブセットに関して詳細な解析を行った。健常者CD8 T細胞においてCD26強陽性(CD28陽性)サブセットは早期エフェクターメモリー、CD26陰性CD28陰性サブセットはエフェクターのフェノタイプを示すが、SLE患者のCD8 T細胞ではナイーブ、早期エフェクターメモリーが減少し、エフェクターが増加することからCD26強陽性サブセットが減少するとともにCD26陰性CD28陰性サブセットが増加していることが多く見られた。また、一部のSLE患者CD8 T細胞中に健常者には存在しないCD26陽性CD28陰性サブセットが発生しており、このサブセットはエフェクターであることを見出した。 2. CD26分子を介したヒトT細胞活性化機構の研究は、我々やその他のグループにより広範囲になされてきたが、CD26共刺激を負に制御する機構についてはほとんど明らかにされていない。そこでCD26共刺激によって誘導される抑制性因子に着目して検討を行った。健常者の末梢血CD4 T細胞は強いCD26共刺激シグナルが入ることで転写因子EGR2の発現増強とともにIL-10を優先的に産生し、産生されたIL-10は自身の活性化抑制に作用することを見出した。この経路はCD28共刺激におけるCTLA-4のように、CD26共刺激によるT細胞の過剰な活性化を制御するための抑制性経路であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の主な研究目的は4項目で、[1]SLE患者末梢血T細胞におけるCD26の発現及びサブセットの解析。[2]CD26共刺激に対する応答性の解析。[3]CD26共刺激特異的シグナルの解明。[4]疾患モデルマウスでのin vivo解析。 これらの研究目的のうち[1]はこの1年間で健常者30名・SLE患者30名のデータを蓄積し、一部のSLE患者に健常者と明確に異なるCD26の発現パターン、サブセット分布が見られることを見出している。研究目的[2]は次年度も引き続き症例数を増やして検討する。研究目的[3]に関しても当初の計画通り、まず健常者のT細胞においてCD26共刺激によって特徴的に発現が上昇する転写因子の絞り込みを行っている。研究目的[4]は当初の研究計画通り次年度以降に行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画ではSLEの臓器障害に特に関係するCD8 T細胞に着目した研究を予定していたが、SLEの多様な病態を解明する上でCD4 T細胞、CD8 T細胞の両細胞におけるCD26の発現と機能の解析を行う必要があると考え、CD4 T細胞に関してもCD8 T細胞と同様の解析を行う。本年度も昨年度に引き続きSLE患者検体の症例数を増やし、CD26の発現パターンや機能とSLE患者の症状、活動期との関係、受けている治療法等との関係を検討し、未だ発症機構の詳細が明らかになっていないSLEのCD26に基づく病態解明と、CD26を分子標的とした革新的治療法の開発に繋げることを目指す。 また、健常者においてCD26共刺激を負に制御する機構として、強いCD26シグナルが入ることで転写因子EGR2の発現増強とIL-10の高産生が誘導されることを明らかにしたが、SLE患者においても健常者と同様にCD26共刺激の負の制御機構が備わっているか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究により、一部のSLE患者CD8 T細胞中に健常者には存在しないCD26陽性CD28陰性サブセットが発生していることを見出した。このサブセットはCD26陰性CD28陰性のサブセットと同様に、Perforin強陽性Granzyme A陽性Granzyme B陽性のエフェクターであることを明らかにしたが、CD26陰性CD28陰性サブセットとの上記以外のエフェクター機能や性質の違いを明らかにする上でDNAマイクロアレイによる解析を予定していたが、本年度中には解析に足る細胞数を回収することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度中にDNAマイクロアレイ解析を行い、健常者には存在しないCD26陽性CD28陰性サブセットの特徴を明らかにし、SLEの複雑な病態との関係について考察する。
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