健常人脂肪由来間葉系幹細胞に骨芽細胞分化誘導を行うと骨芽細胞分化に伴ってメチル化酵素であるDNMT(DNA methyltransferase)1、DNMT3b mRNAの発現上昇、DNMT3a mRNAは不変、脱メチル化酵素であるTET(ten-eleven translation)1、TET2 mRNAの発現上昇、TET3の発現低下、自己複製能のマーカーであるNanog、Oct3/4 mRNAの発現低下を認めた。IL-6/STAT3シグナル刺激を加えることで、有意な骨芽細胞分化(RUNX2/COL1A mRNA発現上昇・石灰化)促進が観察され、TET1 mRNAの発現上昇効果の抑制とOct3/4 mRNAの発現抑制効果の持続を認めた。脂肪分化抑制因子(WNT family)や脂肪細胞分化マーカー(PPARγ)への影響は認めなかった。健常人細胞ではIL-6/STAT3シグナル刺激による脂肪分化促進・抑制因子の破綻効果は確認できなかったが、TET1の発現を抑制することで自己複製を制御して分化を促進していると考えられた。その他の炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、Il-17)刺激では有意な影響は認めなかった。異所性石灰化を合併する炎症性疾患の患者検体(血清・皮下脂肪組織)を用いた解析では、IL-6/STAT3シグナルによるTET1発現への影響を確認するとともに、疾患特異的な脂肪分化破綻因子の特定を行う目的で、患者血清中の石灰化抑制因子である(futuin-A)の測定、皮下脂肪組織でのIL-6産生細胞、TET1発現細胞の割合を確認している。症例の蓄積を行い、非炎症性疾患の患者検体と比較検討を行っていくことで病因解明と新たな治療戦略開発を期待したい。
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