これまでのデングワクチン開発のほとんどは、マウスへの免疫により重要とされたデングウイルスエンベロープ蛋白質のドメインIII領域を対象としたものである。しかしながら、ヒトではマウスとは異なりドメインII領域に対する血清学的交差性及び広域中和能を有する抗体を多く誘導していることを私たちは明らかにした。本研究では、ヒト型単クローン抗体のエピトープ領域を基にしたワクチン開発へ向けた基礎研究を行うことを目的とした。 タイ王国及びその周辺国での流行株の解析では、周辺国から約200株のウイルスを収集し、エピトープ領域のアミノ酸配列の決定を行い相同性の検討を行っている。 マウスへの免疫原性への検討では、実験室株の配列を基にしてエピトープ領域に対するペプチドを合成、及びその領域を含む組換え蛋白質の作製を行い、これらを用いて免疫原性試験を行った。ブースト効果を検討する為、初回免疫には実験室株を免疫し、2か月後に追加免疫としてペプチド及び組換え蛋白質での免疫を行った。なお、追加免疫では、キャリアータンパク質としてBSAを使用した。21日後に採血を行い、中和試験を行った。その結果、陰性コントロール(追加接種にPBSを使用)群でも中和能を示していたことから、初回免疫で誘導された中和抗体価が十分には減弱しておらず、追加接種の結果がマスクされていることが考えられた。そこで、次にアジュバントを用いて、ペプチド及び組換え蛋白質だけの免疫での免疫原性の検討を行った。中和能に関しては、陰性コントロール(アジュバントのみ接種)群も中和能をしめし、エンベロープ領域に対する特異的な抗体誘導以外の応答による中和反応が認められている。以上から、免疫手法の更なる詳細な解析が必要であることが示された。 しかしながら、研究代表者が2015年6月に転職し、転職先での科研費の受入が不可能だったことから、事業廃止の手続きを行った。
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