研究課題/領域番号 |
26860774
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
大久保 陽一郎 東邦大学, 医学部, 講師 (40516267)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クリプトコックス / 樹状細胞ワクチン / 多核巨細胞 / 感染防御機構 |
研究実績の概要 |
クリプトコックス属菌は本邦に常在する病原性真菌であるが、北米大陸でのアウトブレイクを契機にCryptococcus gattii (C. gattii )が注目されている。C. gattiiは健常者においても高病原性を示し、従来のC.neoformansとは異なる臨床的特徴を示す上、渡航歴のない日本人の感染例も報告されている事を考慮すると、世界的な感染拡大が危惧されている。このような背景から研究代表者らは感染予防や治療に資する基盤情報を集積する目的で、本菌に対する樹状細胞ワクチン (DCワクチン)の感染制御効果及びその作用機序を組織学的な観点から解析した。 感染実験自体は国立感染症研究所にて施行されており、具体的にはマウスの骨髄細胞をGM-CSF (顆粒球単球コロニー刺激因子)存在下で6日間培養し、得られた非接着細胞を樹状細胞とし、この樹状細胞にC. gattiiの莢膜欠損株の死菌を抗原として貪食させることでDCワクチンとした。DCワクチンは感染14日前と感染前日に尾静脈から投与した後、3000 CFU/mouseのC. gattii R265株を経気道感染させることで感染モデルマウスを作製し、研究代表者らは組織学的解析を行った。 組織学的解析の結果、DCワクチン投与群の肺では、成熟した多核巨細胞が多数集積し菌体を貪食しており、肺の構築改変も抑制されていた。すなわち、DCワクチンは各種サイトカイン応答を増強し、C. gattii感染後の多核巨細胞形成を誘導することで、菌体の増殖を抑制するものと推察された。また、肺内の肉芽腫形成によるC. neoformansの感染排除にはIFNγが必須であるが、C. gattiiの感染制御にはIFNγの関与は限定的であることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は世界的な感染拡大が危惧されているC. gattii感染症の感染予防や治療に対する基盤情報を得るべく、本菌に対する樹状細胞ワクチン (DCワクチン)の感染制御効果及びその作用機序を組織学的な観点から解析した。その結果、DCワクチンは生体防御反応である多核巨細胞形成を促すこと、ならびに肺の構築改変を抑制することを明らかにすることができ、一定の効果があるものと推測された。 一方、当初予定されていたDNA microarray法に関しては、データ自体を得ることは出来たが、詳細な遺伝子発現変動に関しては未だ不明な点が多く、次年度以降にさらなる検討が必要な状態である。また、ホルマリン固定パラフィン包埋切片からの遺伝子情報の抽出が可能であるかどうか、予備的な研究を行った結果、深在性真菌症を対象とした剖検例においても約1/3の症例で遺伝子情報が保持されていることが判明し、これらの基礎的なデータを学術誌にて報告することが出来た (Aki K and Okubo Y* et al. Japanese Journal of Infectious Disease, in press, *: corresponding author)。今後は、遺伝子発現変動の検討、ホルマリン固定パラフィン包埋切片からの遺伝子情報の抽出、ならびに臨床応用可能な知見を得るべく、ヒトクリプトコックス感染症における組織学的所見と放射線画像的所見の対比が必要と考えられる。 以上の所見より、総じて予定計画年数の1/3が経過した時点の達成度としてはおおむね順調であることから、上記達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は樹状細胞ワクチン (DCワクチン)の感染制御効果及びその作用機序の一端を組織学的な観点から解明することができ、剖検例のホルマリン固定パラフィン包埋切片からも遺伝子情報を抽出し得ることが証明できた。さらに、DNA microarray法による高病原性C. gattiiの遺伝子発現情報を得ることもできた。 今後は、先ずDNA microarray法で得られた遺伝子発現変動を詳細に解析する。特に高病原性C. gattii株接種群 (C. gattii R265株接種マウス)で大きく発現変動する遺伝子を同定する。次いで、可能であれば当該遺伝子を対象にしたリアルタイムPCR法を施行しmRNA発現量の定量化も試みる。これらの解析を通じて病原性に関与する遺伝子を解明すると同時に高病原性C. gattii株の毒力規定因子の一端を解明したい。 また、病理検体として一般的に用いられているホルマリン固定パラフィン包埋切片からの遺伝子情報の抽出に着手する予定である。さらに、臨床応用可能な知見を得るべく、ヒトクリプトコックス感染症における組織学的所見と放射線画像的所見の対比を行い、組織学的所見と放射線画像的所見の相違点を明らかにすることで、画像診断によるクリプトコックス症の診断精度をより高めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は樹状細胞ワクチン (DCワクチン)の感染制御効果及びその作用機序の一端を組織学的な観点から解明し、研究成果を発表したが、本研究補助金のみならず所属機関 (東邦大学)の補助金や講座研究費を活用することが可能であった。そのため、当初予定していた人件費や旅費等の項目について支出することなく研究遂行することが可能となり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の使用計画であるが、平成27年度は国際学会 (19th Congress of the International Society for Human and Animal Mycology, Australia)に出席予定であるため、これに付随して学会参加費・旅費・ポスター印刷費などに用いる予定である。 さらに、ヒトクリプトコックス症を対象とした研究を遂行する予定であるため、これらの症例に対する解析に必要な画像解析ソフト、免疫組織学的解析に必要な消耗品 (一次抗体、スライドガラス、反応試薬等)を主体とした研究費の使用も予定している。今後も、文部科学省 科学研究費補助金の使用ルールを遵守した上で、引き続き必要項目に対して弾力的な研究費の使用を計画している。
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