研究課題/領域番号 |
26860776
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
池尻 藍 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (30528295)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 樹状細胞 / HIF-1α / IL-6 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルス感染により発症する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は急速に進行し高い死亡率を呈するが、現在の治療法では完全なコントロールが困難であるため、臨床現場において問題となっている。そこで抗体産生において重要な抗原提示細胞の一つである樹状細胞や、肺での病原体の侵入を防ぐ肺胞マクロファージに着目した。これらの細胞特異的に、低酸素状態やウイルス感染により誘導されるHIF-1αを欠損させたマウスを作製し、インフルエンザウイルス(PR8株)を感染させるとARDS様症状を発症することを発見したため、ウイルス感染における樹状細胞または肺胞マクロファージでのHIF-1αの役割について解析を行っている。 HIF-1α欠損マウスにおいてARDS様症状が発症する原因の一つとして、樹状細胞からのIL-6産生が多いことが考えられる。そこで骨髄由来樹状細胞にインフルエンザウイルスを感染させると、HIF-1α欠損マウスより作製した樹状細胞においてIL-6産生が増加することを確認した。更に感染マウス血清中のIL-6産生量を測定したところ、HIF-1α欠損マウスにおいて有意に産生が上昇していることを確認した。IL-6は好中球遊走に関与するサイトカインの一つである。そこで感染マウスの肺免疫染色像を比較したところ、HIF-1α欠損マウスにおいて、肺への好中球浸潤が亢進していた。多量の好中球が肺に集積することで、ガス交換が障害され、肺が直接損傷を受けたことでARDS様症状が発症したと考えられる。 また実際にヒトにARDSを発症させるウイルスである高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1をマウスへ感染させたところ、季節性インフルエンザウイルスH1N1と比較して好中球浸潤が亢進していた。さらにH5N1感染では、蛍光免疫染色よりT細胞と結合する樹状細胞の数が減少し、抗体産生が低下していることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオセーフティーレベル(BSL)3のインフルエンザウイルス取扱の技術を習得したため、これまでの実験室株であるPR8株のみならず、ARDS発症原因ウイルスの一つである高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1を用いた感染実験が可能となった。H5N1ウイルスをと低病原性のH1N1ウイルスの比較することで、樹状細胞とT細胞結合の違いにより抗体産生能が低下することを新たに発見した。 カニクイザルを用いた感染実験の技術も習得したため、今後はマウスモデルにとどまらず霊長類を用いた解析も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1では、好中球浸潤が亢進し、脾臓においてT細胞と結合する樹状細胞数が減少するため、抗体が充分に産生されず、ウイルスが排除されないことを明らかにした。しかし減少する樹状細胞がどのようなサブセットであるか不明である。そこでFACS解析により、抗ウイルス作用を持つIFN-α産生のplasmacytoid dendritic cellsやB細胞の分化に関与するfollicular dendritic cells、クロスプレゼンテーションに関わるCD8α+ dendritic cellsなどを中心に比較する。また、脾臓だけでなく感染の現場である肺での樹状細胞の解析を行う。 更にこの樹状細胞の減少におけるHIF-1αの機能を明らかにするために、HIF-1αと結合し転写活性化を行うCBP/p300の阻害剤を用いて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画を効率的・効果的に進めた結果得られたデータを、2016年8月に開催される国際免疫学会で発表するため、演題登録料、学会参加費、旅費に使用する。 また論文投稿中であるため、追加実験に必要となる試薬・理化学用品の購入に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年8月に開催される国際免疫学会で発表するため、演題登録料、学会参加費、旅費として使用する。 論文の追加実験に必要となる試薬、理化学用品の購入に使用。
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