研究課題
小児特発性ネフローゼ症候群(小児INS)は小児期における代表的な難治性腎疾患で、podocyte障害が発生し、蛋白尿漏出防止機構が破綻することで疾患を発症すると推測されている。これまでその発症機序として、1.podocyte関連蛋白をコードする遺伝子の異常、2.リンパ球から何らかのpodocyteを傷害する因子が産生されることによる免疫学的発症機序の2つの発症機序が考えられており、これまで以下のような成果を出すことに成功した。1.podocyte関連遺伝子の網羅的解析技術の確立:これまでに小児INSを発症する可能性のある遺伝子は30近く報告されている。私たちは次世代シークエンサーを用いたターゲットシークエンス解析により、これらの遺伝子を網羅的に解析する診断体制を確立した。それにより、TRPC6遺伝子やLAMB2遺伝子の異常により発症した小児INS患者の診断に成功している。これらの遺伝子異常に伴い発症する小児INSは治療への反応性に乏しく、副作用の強い治療は避けるべきと考えられていたが、その診断体制の整備が大幅に遅れていた。今回その体制整備に成功した。2.免疫学的機序による小児INS発症機序の解明:その発症機序の解明のために患者血清を用い、podocyteの培養を行った。その結果、患者血清とともに培養した場合、小児INS発症に大きく関与するとされているnephrin、podocinなどのスリット膜関連蛋白が細胞膜表面に発現せず、そのほとんどが核周囲にとどまることを見いだした。今後、このような変化の起こる機序につき、研究を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は上述のように小児INSの発症機序の解明を行った。その結果、特発性ネフローゼの発症機序においては、1.podocyte関連遺伝子の網羅的解析技術の確立および2.免疫学的機序による小児INS発症機序の解明に関する研究に着手した。患者血清を用いたpodocyteの培養実験により、上述の遺伝子異常による発症機序ではpodocyteのスリット膜関連蛋白の発現に大きな影響を及ぼさなかったが、免疫学的機序における発症の場合、大きく変化することが分かった。これにより、今後、同実験系により、遺伝子異常によるものか免疫学的機序によるものかを鑑別できる可能性があり、非常に意義のある研究を行っている。
今後、新規INS患者に於いて、私たちの実験系により発症機序を解明することができるか検討を行う。それにより、治療抵抗性が疑われる遺伝子異常による小児INS患者を早期に検出し、余分な治療を行わずにすむように検査体制の確立を目指す。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Clin Exp Nephrol
巻: 20 ページ: 253-257
10.1007/s10157-015-1160-9.
Matsunoshita N, Nozu K, Shono A, Nozu Y, Fu XJ, Morisada N, Kamiyoshi N, Ohtsubo H, Ninchoji T, Minamikawa S, Yamamura T, Nakanishi K, Yoshikawa N, Shima Y, Kaito H, Iijima K.
巻: 18 ページ: 180-188
10.1038/gim.2015.56.