研究課題/領域番号 |
26860803
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
西田 篤史 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 研究員 (80640987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Duchenne型筋ジストロフィー / エクソンスキッピング / スプライシング操作 |
研究実績の概要 |
Duchenne型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子の異常によって発症する高頻度の致死的な遺伝性筋疾患であり、治療法は確立されていない。核酸医薬によるエクソンスキッピング誘導が最も有望な治療法とされているが、核酸医薬ゆえの問題も多い。報告者らは低分子キナーゼ阻害剤であるTG003による、特定のエクソンのスキッピング誘導治療法の可能性を世界に先駆けて発表したが、この手法を多くのエクソンへ拡大する必要がある。本研究は、エクソンスキッピングの作用機序を解明し、より優れた化合物を探索するものである。 報告者は、新たな候補化合物の手がかりを得ていた。これらの化合物に対し、独自のジストロフィン遺伝子ハイブリッドミニ遺伝子プラスミドとHeLa細胞を使用した解析を行った。その結果、タンパク合成阻害薬であるシクロヘキシミド(CHX)が、TG003と似たエクソンスキッピング作用を持つことを見出した。さらに、TG003とCHXを同時に投与した際に、エクソンスキッピング作用が相乗的に増加することを見出した。また、数種類のタンパク合成阻害薬を試したところ、エクソンスキッピング作用を持たないものが多く、エクソンスキッピング作用は、タンパク合成阻害作用に依存するものではないと考えられる。CHXは毒性を持つため、これをヒントにより優れた化合物を探索中である。なお、上述の研究成果に関し、The 64th Annual Meeting of the American Society of Human Genetics においてポスター発表を行った。 また、報告者はエクソンスキッピングの作用機序を解明するため、次世代シーケンサーを用いた解析を行った。しかし、スプライシングに関連する遺伝子への影響は見いだせず、作用機序の解明には至らなかった。 ここまでの研究成果をもとに、より優れた化合物の探索を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者は、新たな候補化合物に対し、ジストロフィン遺伝子のハイブリッドミニ遺伝子プラスミドとHeLa細胞を使用した解析を行った。その結果、タンパク合成阻害薬であるCHXが、TG003と同様に、ナンセンス変異型エクソン31のスキッピングを誘導していることを見出した。さらに、TG003とCHXを同時投与した場合、TG003あるいはCHXを単独で投与した場合に比し、エクソンスキッピングが相乗的に増加することを見出した。また、数種類のタンパク合成阻害薬を試したところ、エクソンスキッピング作用を持たないものが多く、エクソンスキッピング作用は、タンパク合成阻害作用に依存するものではないと考えられる。CHXは毒性を持つため、これをヒントにより優れた化合物を探索中である。なお、上述の研究成果に関し、The 64th Annual Meeting of the American Society of Human Genetics においてポスター発表を行った。 また、報告者は次世代シーケンサーを用い、エクソンスキッピングの作用機序の解明を試みた。エクソン31にナンセンス変異をもつ患者由来の筋細胞を不死化した培養細胞にTG003を投与し、Ion Torrent PGM (Life Technologies)による解析を行った。対照には、TG003の溶媒であるDMSOを使用した。TG003による遺伝子発現の変化をCLC-Bio work bench 7.0(Filgen)を用いて解析した結果、スプライシングに関連する遺伝子への影響は見いだせず、作用機序の解明には至らなかった。 以上より、新たな候補化合物に関しては一定の成果が得られた一方で、次世代シーケンサーを使用した作用機序の解明については、期待した成果は得られなかった。総合的にはおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
新たな候補化合物に関し、ジストロフィン遺伝子を組み込んだハイブリッドミニ遺伝子プラスミドとHeLa細胞を用いた独自のin vitroスプライシング解析系を用いた結果、CHXがTG003のエクソンスキッピング効果を強力に増強することを発見した。この増強効果は期待以上のものであったが、CHXは毒性を持ち、臨床への応用は難しいと考えられる。よって、CHXをヒントに新たな候補化合物を絞り込んでいる最中である。 次世代シーケンサーを用いた作用機序の解明に関しては、TG003を対象に解析を試みた。しかし、その結果は予想に反し、エクソンスキッピングに関連していると考えられる遺伝子の発現変化は認めなかった。この手法は現段階において、当該目的に適さない可能性がある。 そこで、今後の方策としては、より高効率なエクソンスキッピング検出法を確立することが第一に考えられる。また最近、核スペックルの形成に影響を及ぼす化合物が、スプライシングに影響を与えることが報告されている(Biochem Biophys Res Commun. 2014 Mar 28;446(1):119-24.)。これらの化合物についても、新たな候補化合物として、ジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングに対する効果を検証する必要が有る。そして、エクソンスキッピング作用を有する化合物に関し、患者筋培養細胞を用いた、タンパクレベルでの薬効評価を行う。
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