ReTT症候群(RTT)のモデルマウスであるMeCP2遺伝子欠損マウス(MeCP2-/y雄マウス)解剖時に観察された、神経系とは全く異なる臓器の形態変化の原因を解明することを目的として本研究を遂行した。肉眼的所見により得られる当該臓器の大きさおよび光学顕微鏡レベルでみられる当該臓器の主要な細胞(A)の形態異常のみならず、その臓器の形態形成を誘導する他の臓器の細胞(B)の電子顕微鏡レベルでのみ観察される超微形態的異常を初めて見出した。そのため生体内で(A)細胞の形態形成を誘導する(B)細胞が産生する生理活性物質(C)の分泌異常が起こっていると推察され、MeCP2遺伝子欠損マウス生体内の生理活性物質(C)を生化学的検査にて評価したところ、有意に濃度が低下していたことが明らかとなった。 この現象を、in vitroで 再現するため、形態形成を誘導する培養(B)細胞においてRNAi法を用いてMeCP2ノックダウン細胞を作製した。その結果、予想通り培養(B)細胞では、(A)細胞の形態を誘導する生理活性物質(C)の産生が有意に低下していたことを明らかにした。このことから、MeCP2が生理活性物質(C)の産生能を低下させることにより、その結果細胞(B)の形態が変化し、細胞(C)の形態的変化が生じると結論付けた。 さらに、この生理活性物質産生低下の直接原因となるMeCP2が結合する遺伝子を特定するために、MeCP2ノックダウン培養(B)細胞から総RNAを抽出し、定量PCRにて生理活性物質(C)の生合成に関わる複数の遺伝子群を定量し、いくつかの変動遺伝子を得た。この定量PCRに予想外に時間がかかり、最終年度の真のRTTモデルマウスであるMeCP2遺伝子欠損雌マウス(MeCP2+/-雌マウス)の作製と表現系・諸臓器形態を比較するという内容に着手はできたが、材料作製の段階にとどまった。
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