研究課題
平成26年度の研究で、全エクソーム解析を用いることにより、乳児期発症てんかん性脳症1家系(兄弟例)から、アミノアシルtRNA合成酵素遺伝子の一種であるQARSの複合ヘテロ接合性変異 [c.169T>C (p.Y57H) および c.1485dup (p.K496*)] を同定した。乳児期発症のてんかん性脳症は、難治性のてんかん発作に加えて精神運動発達遅滞を呈する疾患群である。これまでに、イオンチャネル遺伝子、シナプス小胞調節遺伝子、3量体G蛋白質遺伝子や糖ヌクレオチドトランスポーター遺伝子の異常等が見つかっているが、全体の3割程度を説明するに留まっていた。本研究によるQARSの同定は、アミノアシルtRNA合成異常が関与する、てんかんの新しい発症機序の存在を示唆するものであった。変異が病的であるか評価を行うため、同定された変異をもとにした組換えタンパク質を作成し神経細胞内発現解析を行った。Neuro2A細胞内においてAcGFP1-tagを付加したQARS変異体を一過性に発現させたところ、p.K496*変異体では細胞内における分解が観察されたものの、p.Y57H変異体では野生型との間に局在の違いを認めなかった。そのため、生化学的に酵素活性の違いを比較するため、放射性同位体を用いたアミノアシル化活性測定に取りかかった。しかしながら、アメリカのグループにより、QARS変異が進行性小頭症および難治性てんかんの原因であるとの報告がなされたため、それまでに得られた実験データを詳細な臨床所見と併せ、すぐにセカンドレポートとして報告した(Kodera et al., J Hum Genet 2014)。我々の報告した1家系とアメリカのグループが報告した2家系を併せて考えると、QARS変異によって、髄鞘低形成および白質異常が引き起こされると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまでに100例を超える乳児期発症てんかん性脳症のExome解析を通じて、3家系において常染色体劣性遺伝形式をとる3種のアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異を同定してきた。そして、まずその中の1種であるQARS変異について変異タンパク質の機能解析を用いた病的意義の評価を行い、論文報告まで行うことができた(Kodera et al., J Hum Genet 2014)。また、平成26年度では、当初の予想を超える200症例以上の新規てんかん性脳症検体の受け入れができており、今後の研究においても、アミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異のスクリーニングが効率良くできる基盤を構築することができた。
平成27年度においても、Exome解析による病的変異の網羅的スクリーニング、動物細胞を用いた発現解析および生化学的活性測定を引き続き行う。Exome解析によって見つかってきたアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異を、機能解析系に順次追加し、アミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異がもたらす病態解明に努める。
我々は3種のアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異をまとめて論文報告することを目標としていたが、その中の1種であるQARSがアメリカのグループに先に論文投稿された。そのため、研究方針を変更し、まずはQARS遺伝子変異単独で研究をまとめて論文報告を行った。他の2種のアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異については、QARSの論文をまとめている間は機能解析等を一時中断させていたため、それらの実験にかかると予想されていた金額が繰越金として生じた。
繰越金は、主に、同定済みの2種のアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子変異に対する機能解析、そして、新規に受け入れたてんかん性脳症検体のエクソンキャプチャー試薬の購入に充当する予定である。また、論文発表、学会(国内、海外)での発表費用として使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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