研究課題/領域番号 |
26860818
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
中島 葉子 藤田保健衛生大学, 医学部, 助教 (70598309)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 先天性ピリミジン代謝異常症診断システム / 5FU薬物代謝 / ハイリスクスクリーニンング |
研究実績の概要 |
先天性ピリミジン代謝異常症の臨床症状は多様であり、未だ症例数に乏しく発症頻度や遺伝子変異等の詳細は不明であり,さらなる症例の蓄積が必要とされている。また、dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)欠損症, dihydropyrimidinase(DHP)欠損症患者へのフッ化ピリミジン系抗癌剤5-fluorouracil(5-FU)投与は重篤な副作用を引き起こす。DPD欠損症, DHP欠損症およびβ-ureidopropionase欠損症を一斉にスクリーニングする方法として、UPLC-MS/MS を用いた尿中ピリミジン代謝物濃度の定量法を検討した。尿中又は尿濾紙中のuracil, thymineおよびその代謝産物である DHU, DHT, UP, UIB とcreatinineをタンデム質量分析計のMRMモードで検出した。UPLCの条件はODSカラムの1種であるACQUITY UPLC HSS T3 カラムを使用し、溶媒は1%ギ酸水溶液とアセトニトリルとのグラジエント分析を行うことでこれらの物質を同時に分離し、各物質のピーク形状良好なクロマトグラムを得た。各分析物質に対してそれぞれ対応する安定同位体でラベルしたIS を用いることで各物質の検量線は良好な直線性を示した。ハイリスクスクリーニングの対象としては、大きく二つのグループを設定した。過去に報告されている臨床症状を検討し高頻度であった精神運動発達遅滞、けいれん、小頭症、自閉症を中心に、広汎性発達障害、学習障害、複雑型熱性けいれんなど低頻度の症状も含めた神経外来に通院している児、心身障害児施設に入所している児を対象とした有症状群と、5-FU投与にて重篤な副作用を呈した症例とその家族など薬物代謝関連酵素欠損症が疑われる5-FU副作用群の2群においてハイリスクスクリーニングを進めていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先天性ピリミジン代謝異常症の診断システムの構築が第一目標であったが、尿または尿濾紙を用いた簡便かつ短時間で多くの検体のスクリーニングを行える方法を確立できた。さらには尿スクリーニング陽性者に対して、同意が得られた場合は確定診断の一環として遺伝子検査を行えるよう、大学内のヒトゲノム倫理委員会での検討も進めている。また、5FU投与時の副作用発現については、5FU分解経路の律速酵素であるDPD欠損症では保因者であっても重篤な副作用を呈することが知られているが、保因者では尿中ピリミジン分析で特異的なパターンを示さないため見逃す可能性がある。そこで、本年度の研究計画には含まれていなかったが、末梢リンパ球を用いたDPD活性測定法を確立し、DPD部分欠損すなわち保因者の診断を可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で確立したスクリーニング方法を利用して実際にハイリスクスクリーニングを行っていくが、稀少かつ知名度の低い疾患であるために、まだ依頼検体数が少ない。これまでの本学にて収集したデータから推測すると、これら疾患の発見頻度はスクリーニング1000件に1例未満と考えられるため、他施設と合同でハイリスクスクリーニングを進める必要がある。今後愛知県内の四大学共同研究対象課題としての登録を行い、ウェブサイト上で先天性ピリミジン代謝異常症のハイリスクスクリーニングを行っていることをアピールすると共に、各大学の担当者を通じそれぞれの関連病院へとスクリーニング範囲を拡大していく予定である。また小児科関連の研究会のみならず、抗癌剤を扱っている薬剤部との合同会議やがん治療専門施設などに積極的に当システムを紹介し周知を図る必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年後はUPLC-MS/MSを用いた尿中ピリミジン代謝物濃度の定量法の検討を行ったが、設備品・消耗品の多くは当研究室で備蓄していたものを利用したため、物品費の支出が少なかった。尿中又は尿濾紙中のUracil, thymineおよびその代謝産物である DHU, DHT, UP, UIB とcreatinineを同時に定量するための検討には、何度も異なった条件・方法を試す必要があり、最終的にハイリスクスクリーニングを行うために必要な物品を選定するための期間でもあった。また、酵素活性測定、遺伝子解析に関してもすでに当研究室で使用している物品を利用し試行実験を行った。測定条件設定、試行実験の段階で、本研究費を利用すると購入した物品を無駄なく本研究に利用できない可能性があるため、できるだけ当研究室に既存のものを利用して検討した。今後は測定方法・解析方法が決定したため、本研究費を使用して必要な物品を購入する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本格的にハイリスクスクリーニングを進めていくが、目標検体数は1000検体以上を設定しているため、今後は多くの検体処理を行わなくてはらない。検体採取時に必要な濾紙・スピッツからUPLC-MS/MSを利用した尿中ピリミジン一斉分析に必要な消耗品、設備品、さらに確定診断としての遺伝子検査に必要な消耗品や解析ソフトなどの購入に本研究費を利用する予定である。各主治医への尿中分析結果報告書作成や情報管理に関わる事務的作業にもある程度の物品購入が必要となる。また、稀な疾患であるため臨床医の間で当疾患の知識は透しておらず、臨床現場で本疾患を疑われることが少ない。疾患説明と罹患患者における5FU投与時の副作用出現に関する情報の周知を図るためのPR活動(研究会参加、ミーティング開催、交通費など)にも本研究費の使用を計画している。
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