研究課題/領域番号 |
26860836
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 敦志 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (60466745)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 結節性硬化症 / mTOR |
研究実績の概要 |
結節性硬化症(TSC)モデルマウスであるTsc1ヘテロ、Tsc2ヘテロマウスを交配し、遺伝学的背景が共通するTsc1ヘテロ、Tsc2ヘテロ、Tsc1-Tsc2ダブルヘテロマウス(以下、TscDマウス)を得て、このマウスの社会性に関する行動を生後3ヶ月齢以降に比較検討した。自閉症症状にあたる同性の新奇マウスに対する探索行動の減少が、social interaction testおよび3 chamber testで認められた。反復的常同的行動にあたる異常行動の増加が、立ち上がり行動および毛繕い行動において認められた。これらの行動異常の程度は、ほとんどがTsc1ヘテロ、 Tsc2ヘテロ、TscDマウスにおいて同程度であった。続いて、3 chamber testの実験手続を改良し、新奇マウスとケージメート(同じケージで飼育している同性の同腹仔)を比較したところ、Tsc1ヘテロマウスは野生型マウスと同様、新奇マウスをより探索したが、Tsc2ヘテロとTscDマウスは両者を同程度に探索した。Tsc1ヘテロマウスにおいても、新奇マウスへの選択性を表す指標は野生型マウスよりも低下していた。ヘテロ欠失マウスの実験系においても、ヒト患者ならびにコンディショナルノックアウトマウスにおける知見に一致して、Tsc2の異常によって自閉症様行動異常がより重症となることが明らかとなった。また、Tsc1とTsc2という2つの遺伝子が下流のmTORシグナル系を抑制性に制御するさいに、既知の「Tsc1蛋白とTsc2蛋白がヘテロ2量体を形成して作用する」作用だけでは説明困難な、何らかの未知の作用機序を介していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成26年度はTscダブルヘテロマウスを得て、自閉症に関連する行動異常について網羅的に解析することとしていた。実際の研究においても、大きなトラブル等なくマウスを得ることができた。予定していた行動解析も、十分量のデータを得て統計学的比較検討を行うことができた。加えて、Tsc1ヘテロマウスとTsc2ヘテロマウスの行動異常の差を検出するよう、従来の実験方法の改良を行うこともできた。達成状況としては、当初の計画どおりであり順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降は、まずは昨年度に見いだされたTscモデルマウスの行動異常が、mTOR阻害剤ラパマイシンによって改善するか、改善の程度がTsc1ヘテロ、Tsc2ヘテロ、TscDマウスにおいて異なるかどうかを検討する。また、これらのマウスにおいて一部の行動異常がTsc2ヘテロマウスでより重症となる機序を、脳組織を用いた蛋白質解析によって検討していく。これと並行して、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)に作用する薬剤が、Tscモデルマウスの行動異常に対して治療効果があるか、先行研究による知見があるCDPPB(mGluR5の作用増強)などを用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった試薬(ラパマイシン)、ならびにマウスの行動解析装置(3チャンバーテスト用)が、研究施設内で先に購入され、共有することができるようになったため、本研究費を用いては購入せず余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
mGluR5へ作用する薬剤がマウス自閉症様行動におよぼす影響を調べるため、試薬の購入、データ解析(マウスの行動を撮影した動画の観察等、大容量データを扱う)のためのパソコンの新規購入、マウス脳の蛋白質解析に用いる各種試薬ならびに消耗品の購入に使用する計画をしている。随時得られた研究成果を発表するため、学会参加のための参加費ならびに旅費、論文発表にかかる費用にも充てる。
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