成育限界期に出生する早産児の後遺症なき生存を達成するために,われわれはヒト胎盤循環を模したポンプレス人工胎盤を開発した.この人工胎盤は「脱血カヌラ+膜型人工肺+供血カヌラ」のみで構成されるきわめてコンパクトな体外式補助循環装置で,早産児に胎児循環から成人循環への適応を強制しない.本研究では世界最小容量の試作膜型人工肺を並列回路でヒツジ胎仔に装着し,妊娠90-100日 (ヒト妊娠24-27週に相当) かつ体重1.0 kg以下の小さなヒツジ胎仔でも,3日間以上安全に呼吸循環管理できることを証明する. 平成27年度には妊娠100日のヒツジ胎仔8例に人工胎盤回路を装着した.いずれも予定どおり68時間生存させることができたが,その循環管理に難渋した.8例中5例に全身皮下浮腫もしくは腔水症が認められ,その内の4例が脳白質損傷を合併したからである.後にその原因が人工羊水の日和見感染による敗血症性ショック (Pseudomonas aeruginosa) であることが判明した. そこで今年度の後半には,(1) 人工羊水への抗生剤投与を避けることで日和見感染を予防し,(2) 循環フィルター回路に高温短時間の加熱殺菌回路を組み込で人工羊水をパスツリゼーション殺菌し,(3) 紫外線殺菌回路を2倍にして殺菌力を強化し,(4) 人工羊水へ次亜塩素酸の添加を行うことによって,グラム陰性桿菌の増殖を抑制することができた.その結果,8例目の実験では胎仔動脈血からグラム陰性桿菌が検出されなくなった.
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