平成27年度の研究報告において、HIEモデルラットに対しMuse細胞を投与することで1か月(亜急性期)と5か月(慢性期)での行動学的な改善効果が認められることを報告した。今回さらに、Muse細胞を除外した間葉系幹細胞(non Muse細胞)を加え、Muse細胞との行動学的な比較検討を行った。その結果Cylinder試験では、投与後5か月の評価で前肢使用非対称性の程度が、Muse投与群においてnon Muse投与群やvehicle群と比較して改善しており、運動障害の改善が示唆された。学習障害は能動的回避反応(shuttle avoidance test)で評価し、同様に5か月の時点でMuse投与群において有意な治療効果を認めた。さらにopen field試験により、vehicle投与群・non Muse投与群で認めていた多動性(行動異常)が、Muse投与群で有意に改善していることを確認した。またMuse細胞投与による各種臓器(肺・肝臓・脾臓・腎臓)での肉眼的腫瘍性変化などの弊害は認めなかった。 次に各臓器におけるMuse細胞またはnon Muse細胞の生着確認として、Alu Sequenceを用いた評価を行った。細胞投与2週後の時点では、Muse細胞が患側脳と肺で、non Muse細胞が肺でのみ検出された。また細胞投与4週後の時点では、Muse細胞が患側脳でのみ検出され、non Muse細胞はいずれの臓器でも検出されなかった。以上の結果からMuse細胞は投与後長期にわたって患側脳にのみ生着することが証明された。 現在さらなる評価として、皮質脊髄路の側通性確認などの電気生理学的評価や、SPECT/PETによる画像評価を行っているところである。
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