研究課題
転写調節因子として働くエストロゲン関連受容体 (estrogen-related receptor: ERR) は3つのサブタイプα,β,およびγからなり,内因性リガンドの見付かっていないオーファン受容体でる。ERRは正常な神経発達やエネルギー産生に必須の分子である一方,複数の有機塩素系農薬成分や内分泌攪乱物質であるビスフェノールA (BPA)等と強く結合することが知られており,近年増加している軽度発達障害との関連性が疑われている。初年度においては,ERR誘導性の遺伝子発現が神経の可塑性に関与するか否かを突き止めることを目的とし,以下の実験を行ったので報告する。1) Thy1-GFPマウス(M-line)胎児の海馬由来の初代培養系を確立した。現在,ERR発現ベクターの導入やERRと結合する化合物の投与による樹状突起スパインの変化の解析を目指し,実験を継続中である。2)エストロゲン受容体 (ER)αは,正常な脳発達や神経可塑性,情動,社会行動等に重要な役割を果たすことから,ERRのERαに対する作用について調べた。FRAP解析により,ERαの選択的アゴニストであるPPTの存在下においてERRβはERαの可動性を低下させるが,抗エストロゲン剤であるOHTの存在下ではERRβはERαの可動性に影響を与えないことが判明した。また,FRET法により,エストロゲンの存在下でERRβはERαと直接的に相互作用を起こすことが示された。3)ERα陽性であるMCF-7細胞にERRβ発現ベクターを導入すると,ERα標的遺伝子のうちbcl-2の発現は有意に低下したが,c-mycの発現は変化しなかった。以上より,ERαの標的遺伝子にはERRβによって影響されるものとされないものが存在することが分かった。2)および3)の結果より,ERRβはアゴニストによって活性化したERαと直接的に相互作用を起こし,その可動性を低下させることでエストロゲンシグナルを選択的に調節することが示された。
2: おおむね順調に進展している
初年度においては,当研究課題における神経可塑性の解析に必須であるThy1-GFP系マウスの海馬初代培養系を確立することが出来た。また,正常な脳発達や神経可塑性に必須であるエストロゲンシグナルに対するERRの関与について明らかにすることが出来た。初年度の研究成果を基盤として,次年度以降の計画を更に推進出来るものと考えられる。
次年度以降は,ERRが神経の発達や可塑性を制御するメカニズムの解明を目指す。ERRを豊富に発現するThy1-GFPマウス新生児の初代神経細胞培養系を用い,選択的阻害剤を用いたERRの阻害実験および遺伝子導入によるERR過剰発現実験を行う。評価項目としては,ニューロンの生存,突起の伸長,スパインの形態,密度,大きさ等とし,これらを定量的に評価する。更に,成熟/未成熟マーカー,その他マーカータンパクを用い,蛍光免疫細胞化学染色によりニューロンの成熟や分化が如何に変化するかを検証する。
科研費申請の際,初年度には論文投稿関係費として200千円を確保しておく予定であった。科研費獲得後,研究計画を実際に遂行すると,想定していた程の支出を生じずに成果を得ることができ,当初計画通り200千円を用いて研究成果を論文に投稿することとなった。しかしながら,論文は次年度の刊・号に掲載されることとなり,投稿/掲載料等は次年度に支払うこととなった。結果的に,当初計画にあった論文投稿関係費の200千円が次年度に繰り越されることとなり,これは妥当であると考えられる。
上記の通り,初年度に得られた研究成果を論文にて発表するために使用する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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