研究課題/領域番号 |
26860860
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所) |
研究代表者 |
爪 麻美 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 病因病態部門, 研究技術員 (70711026)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | BETファミリータンパク質 / ヒストンアセチル化修飾 / 転写制御 / RNAポリメラーゼII / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、BETファミリータンパク質が関与するヒストンアセチル化修飾は、どのような下流遺伝子の発現制御を介しているかについて明らかにすることを目的とし、以下の解析を行った。 1) BETファミリータンパク質のヒストンアセチル化修飾を読み取る機能を阻害(JQ1処理)し、発現変動が見られる遺伝子を網羅的に調べるために、マイクロアレイを行った。これまでの結果を考慮し、材料は未分化な幹細胞を個体で解析するのに適しているマウスの胚盤胞を用いた。マイクロアレイの結果、JQ1処理で発現が低下した遺伝子は、発現が上昇した遺伝子より多いことが分かった。特に、発現低下した遺伝子には、幹細胞の形成・維持に重要な役割を果たすNanog遺伝子が含まれていた。そこで、幾つかの発現低下が見られた遺伝子についてWhole-mount in situ hybridizationを行ったところ、マイクロアレイ同様にmRNAレベルでの発現低下が確認できた。 2) BETファミリータンパク質は転写の制御に関与することが示唆されているため、JQ1処理で見られた遺伝子の発現低下は、転写の異常が原因であるかについて調べるために、RNA 蛍光in situ hybridization (RNA-FISH)を行った。作製した蛍光プローブはイントロン配列を含み、新規に転写された未成熟な(スプライシングを受けていない)RNAを検出できる。解析に用いた胚盤胞は、内部細胞塊(ICM)とそれらを取り囲む栄養外胚葉で構成されているが、ICMでは幹細胞を維持するNanogと内胚葉分化へ向かわせるGata6が拮抗して発現することが知られている。RNA-FISHの結果、JQ1処理胚のICMの核内では、Nanogの蛍光シグナルが消失した一方で、Gata6には変化が認められず、幹細胞形成に働くRNAの転写が停止していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の結果を考慮し、マウス胚の全胚培養系から胚盤胞の培養系に変えたものの、マイクロアレイを用いた網羅的な発現解析の結果を得ることに成功した。さらに、予定していたRNA-FISHを用いた発現解析を行うことができたため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
BETファミリータンパク質が関与するヒストンアセチル化修飾は、どのような下流遺伝子の発現制御を介して、幹細胞の維持に関わっているのかについてより詳細に解析するために、以下の実験を行う。 マイクロアレイで発現変動が見られた遺伝子は、どのような生物学的機能を持っているかについて調査するために、Gene Ontology解析、GSEAあるいはIngenuity Pathways Analysisを行う。さらに、JQ1処理胚で見られたNanog遺伝子における転写停止の原因を調べる。これまでのBETファミリータンパク質の機能から、RNAポリメラーゼⅡは転写開始点で停止しているか、もしくは転写伸長途中で停止していることが推測されるため、RNAシークエンスを行い、どちらの状態にあるかについて調べる。また、RNAポリメラーゼⅡC末端ドメインのセリンリン酸化状態の変化と、下流遺伝子の発現変動が一致するかについて、FISHと免疫染色の二重染色を行い検証する。 以上の研究結果を取りまとめ、国内学会または海外の学会において成果発表を行うとともに、論文として国際雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
幾つかの抗体やディスポーザブル製品は効率的に使用することができたため、次年度利用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は引き続き、マウス購入、組織学用試薬、FISH用の試薬、ディスポーザブル製品、阻害剤などの生化学・分子生物学試薬の購入に加えて、RNAシークエンス、網羅的なデータ解析費、成果発表のための旅費等に使用する予定である。
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