平成29年度は、ヒストンアセチル化修飾に結合して働くBETファミリータンパク質が、下流遺伝子を介してどのように幹細胞維持に働いているか明らかにすることを目的とし、以下の解析を行った。前年度に引き続き、解析材料には未分化な幹細胞を個体で解析するのに適しているマウスの胚盤胞 (受精後3.5日目胚) を用いた。 1) 前年度に行ったマイクロアレイで得られたデータを用いて、BETファミリータンパク質のヒストンアセチル化修飾への結合を阻害したときに発現変動する遺伝子群が、どのような生物学的機能を持っているかについて、Ingenuity Pathway Analysisを行った。その結果、BETの機能阻害によって発現が低下した遺伝子群は、胚性幹細胞の分化多能性や転写制御に関わる遺伝子群であること、さらにはJAK/STATシグナル経路と関連していることが分かった。 2) BETファミリーは転写伸長に関わることが示唆されているため、BET機能阻害によって発現低下したNanogなどの遺伝子では、RNAポリメラーゼⅡは転写開始点で停止しているか、もしくは転写伸長途中で停止していることが考えられた。そこでまず、DNA-FISHを行い、核内におけるNanog遺伝子座の位置を可視化した。さらにBETを機能阻害した胚盤胞を用いてRNA-FISHとDNA-FISHを組み合わせて行い、Nanog遺伝子座においてRNA合成が低下していることを確認した。次に、RNAポリメラーゼⅡC末ドメインのセリンリン酸化状態の変化をNanog遺伝子座付近で観察するために、DNA-FISHと免疫染色の二重染色を行ったが、安定した結果を得るためにはさらなる条件検討が必要となった。 3) RNAシークエンスを行うことでBETの機能を特定できるか、具体的な実験方法について共同研究先と議論を進め、必要となる胚盤胞のサンプリングを行った。
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