研究実績の概要 |
弘前大学皮膚科で保管している過去の手術検体から、主に表皮に関連した腫瘍をピックアップし、それぞれの検体のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックあるいは大きな腫瘍の場合は、保存されていた凍結組織からgenomic DNAを抽出した。まずは抽出したgenomic DNAを用いて直接シークエンス法で解析した。石灰化上皮腫(毛母腫)においては、βカテニン遺伝子変異が多いとの報告があるが、実際、当科で経験した表皮様嚢腫と毛母腫のfollicular hybrid cystにおいて、毛母腫病変部においてのみβカテニンのリン酸化部位に変異が見つかり、毛母腫形成に本遺伝子変異が関連していることを示す結果となった。なお、hybrid cystにおいてβカテニンの遺伝子変異を同定しえたのは今回が初の報告である。 次に悪性腫瘍における遺伝子変異検索であるが、当初サンガー法でKRAS, NRAS, BRAFなどの各癌関連遺伝子のシークエンスを解析する計画を立てていたが、それぞれの遺伝子のHot spotを効率的に検索でき感度も高いとされる、multiplex PCRを併用するSNaPshotシステムを導入した。本システムにより、BRAF、KRAS、NRAS、PIK3CAの遺伝子変異を同時に行うことができる。SCC 29検体、Bowen病 22検体からgenomic DNAを抽出して検索を行った結果、SCC 1検体とBowen病 1検体からKRAS c.35G>Aの変異が検出された。すなわち、SNaPshot法を用いて表皮角化細胞由来の悪性腫瘍を検索した結果、2/52,3.8%の変異検出率であった。これは同じ方法で当科で悪性黒色腫に対して行った結果(7/32, 31%で変異同定)と比較しても変異同定率が低く、SCC、Bowen病に関しては、少なくとも本法を用いて検出される変異は少ないことが示された。
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