研究課題
深部静脈血栓症は、深部静脈に血栓を生じることにより、皮膚炎や皮膚潰瘍を生じる疾患である。現在までに、血小板や凝固因子の他、好中球を初めとする炎症細胞の関与が示されている。最近、我々は、好中球がローリング中に細胞の前方に突起状の構造物を形成することを発見し、slingと命名した。slingは流れが速くずり応力が強い時に生じる。深部静脈血栓症では、後毛細血管細静脈よりも径が大きく流れの速い血管が主座となる。最近新しく開発された静脈狭窄モデルでは、血流が保たれるため、slingの解析が可能である。そのため、まず、sling上に発現する細胞接着分子の関与について、静脈狭窄による深部静脈血栓症マウスモデルを各細胞接着分子欠損マウスに用いることにより、解析を行ったが、これについては有意な差を認めなかった。接着分子の活性化にはケモカインからのシグナル伝達が重要であることが分かっているため、このシグナル伝達分子について更なる検討を加えることとした。Gai subunitsはケモカイン受容体のすぐ下流にある分子で、各subunit間で相同性が高いため、これまであまりシグナル伝達に果たす役割についてsubunit間での違いが知られていなかったが、ある特定のGai subunitを欠損すると好中球ではarrestが抑制され、別のGai subunitを欠損するとtransmigrationとchemotaxisが抑制されることが分かった。これは深部静脈血栓症においては、ある特定のGai subunitの抑制や活性化により、好中球が血管壁についたまま、血管外に移動していかない、つまりは症状の増悪に働く可能性があることを示唆している。今後、これらの分子を特異的に抑制もしくは活性化することにより、副作用を抑えつつ深部静脈血栓症をコントロールしていくことが可能となることも示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
深部静脈血栓症における炎症においては、炎症の主座が血管内にあるという点が他の感染症を含めた炎症性疾患との大きな違いである。これにより、深部静脈血栓症は、好中球の浸潤における各ステップ、arrest、transmigration、chemotaxisのうち、arrestのみで浸潤が完了し、他の疾患と違い、transmigration、chemotaxisというステップの影響を受けにくいという非常にユニークな特徴を持った疾患となっている。arrestとtransmigration、chemotaxisの2つを分離してコントロールすることが可能となった場合には、深部静脈血栓症のこのユニークな特徴により、感染症などに影響を及ぼさず深部静脈血栓症における炎症のみを抑制するといった治療が実現される可能性もあり、今回の研究成果は深部静脈血栓症の研究において大きな進歩と考えられる。
今後は、各Gai subunitの特異的な制御機構のメカニズムをさらに解析していく予定である。
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J Dermatol
巻: 42 ページ: 524-7
10.1111/1346-8138.12827.
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