本研究では、青色光を照射することでcAMPを産生する光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)遺伝子を正常ヒトの悪性黒色腫細胞株に導入し、光を当てることによって腫瘍細胞内のcAMP濃度を人工的に自在にコントロール可能にして、cAMP濃度に応じた細胞応答、即ち増殖・細胞死等に関わるシグナルを調べ、悪性黒色腫の新たな治療ターゲットを探索することを目的としていた。 まず同遺伝子を導入したHEK293細胞を2週間青色光下及び暗所で培養し、細胞数をカウントしたところ、青色光の持続照射では暗所に比べて細胞の増殖が抑制された。しかし、この細胞に1日1回5分の光照射だけ3日間行うと、全く光照射を行わなかった場合より、細胞増殖は逆に促進されていた。これらの結果から細胞内cAMP濃度上昇は、その持続時間によって、異なった作用を及ぼす可能性が示された。更に80時間持続照射培養後のFACSを用いた細胞周期解析を行うと、G2期の細胞が青色光下で増加していた。従って、cAMP濃度の持続的高値はG2/M check pointでの抑制として細胞周期に影響している可能性が考えられた。 次いで、PAC遺伝子導入前の悪性黒色腫細胞株に、長時間青色可視光を照射してその反応を調べたところ、PACを導入していない場合でも、細胞増殖が有意に抑制された。このことから長時間の青色可視光の照射が、悪性黒色腫細胞の増殖や細胞死に影響を与えている可能性が示唆された。実験の方法論および本研究を取り巻く人員的な問題から、研究期間内に期待される十分な成果を上げることが困難と判断し、本実験の継続を断念した。
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