本研究は、皮膚の重要な機能である「バリア機能」と「水分保持機能」において中心的な役割を担っている保湿成分(天然保湿因子:Natural Moisturizing Factor(NMF))に注目し、共焦点ラマン分光装置を用いて、角質層におけるNMF含有量と皮膚表面から内部にかけての分布について非侵襲かつ無標識に詳細な解析を行った。アトピー性皮膚炎患者の手掌・前腕・顔面など特徴的な皮疹を呈する部位を中心に、健常人を疾患比較対象群としてNMF、経皮水分蒸散量(TEWL)、pHを測定した結果、アトピー性皮膚炎患者群では角層表面から顆粒層直上の全層に渡って有意にNMF分布の低下が確認され、TEWLやpHとの相関が確認された。また、アトピー性皮膚炎治療に用いられるステロイド外用薬による副反応として皮膚の菲薄化が生じ、それにともなってNMFの低下も生じていることが予想されていたが、長期ステロイド外用薬を使用し続けた手指において、非使用群と比して有意にNMFが低下することが判明した。さらに、日常生活における入浴・石鹸洗浄後のNMF改善度についてもアトピー性皮膚炎患者群と正常コントロール群について評価を行い、入浴後早期に保湿剤を塗布することで、より早くNMFが改善されることを詳細に解析した。今後も、患者臨床検体の測定を引き続き行い蓄積する体制が整理でき、難治性皮膚疾患の病態解析、新規治療薬の治療戦略の起点となる基礎的データの収集に成果を得たと考えている。
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