研究実績の概要 |
近年各種悪性腫瘍に於いて,腫瘍細胞に選択的増殖優位性あるいは細胞死回避能を付与する遺伝子変異が続々と同定され,ドライバー変異と呼ばれている.個々のがん細胞の生存は,このドライバー変異に強く依存するため,特定の変異や融合遺伝子を標的として開発された分子標的治療薬は,特異度が高く,強力な抗腫瘍効果と副作用の軽減が期待される.本邦で発生頻度の高い肢端黒子型黒色腫(acral lentiginous melanoma;ALM)に於いて,高頻度に検出されるKEAP1-NRF2系の活性型遺伝子変異が,悪性黒色腫の発生リスクの素因 (predisposition)になり得るか,細胞生物学的に検証する.研究期間内に,以下の2つのアプローチにより上記作業仮説の検証を試みる.①正常メラノサイトへの活性型KEAP1/NRF2変異導入による腫瘍形成能の検証,②悪性黒色腫で高頻度に生じているBRAF/NRAS変異誘導型の酸化的リン酸化抑制機構1,2)が,活性型KEAP1/NRF2変異によって代償可能かの検証を行う. ヒト正常メラノサイト(NHEM-M, NHEM-D)を元に,hTERT/CDK4(R24C)/TP53(DD)の細胞は樹立した.この細胞株を用い,活性型KEAP1/NRF2変異導入による腫瘍形成能の検証したが腫瘍形成能は無かった.グルコース代謝,アポトーシスには多大な影響を及ぼし,腫瘍の増殖に大きな影響を与えていた. 結論的には,KEAP1-NRF2系の異常は単独では悪性黒色腫のドライバー変異とはならないことが明らかとなった.ネガティブデータであるが,現在論文を作成し投稿予定である.
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